第5章
年差±20秒を実現したキャリバー9RB2
ぜんまい駆動式の腕時計として
世界最高峰の精度を究める
日差や月差を超え、ぜんまい駆動式の腕時計としては世界最高峰に君臨する年差±20秒というハイレベルな精度。これを実現したキャリバー9RB2「スプリングドライブU.F.A.(Ultra Fine Accuracy)」が、着想から8年の時を経て2025年に誕生した。本章では、脅威の年差±20秒を実現した背景を紹介したい。
長年の開発経験を活かし、年差化を実現
キャリバー9RA系の開発で培った3ヶ月間の「エージング工程」を経た水晶振動子と温度による精度変化を補正する温度補正機能搭載の超省電力ICと配線を真空パッケージに封入した「パッケージIC」を採用。年差化にあたり、水晶振動子の経年によるわずかな振動数のずれを改善するために加工した際の内部のわずかな残留応力を(元の形に戻ろうとする力)軽減して安定させた。また、水晶振動子を含めた各パーツを徹底的に見直し、ICを新規設計することで、ごくわずかに生じてしまう精度のばらつきさえも最低限に抑えて、超高精度を実現した。ぜんまいの出力トルクを上げて安定させると同時に、駆動輪列における歯車形状の適切化で伝達効率を改善。駆動負荷を低減して持続時間や発電性能も確保したのである。

スプリングドライブ史上初の緩急調整機能搭載、耐磁性能も万全
キャリバー9RB2には、スプリングドライブ史上初となる進み・遅れを補正するための緩急スイッチが搭載された。長期使用による水晶振動子の微細な振動数の変化で、ごくわずかに生じる精度のずれに対応するためだ。アフターサービスの際、キャリバーの特性に合わせた精度の微調整を行うことで、長きにわたり年差精度を維持できる。また、小型化にも寄与する点として、外部からの磁力による影響に対応するための耐磁機能も特筆だ。従来はムーブメント外周に設置された軟鉄製耐磁素材を、4のパーツに分けて、ムーブメントの表側と後側の余白スペースに配置。このように着想・技術力による地道な改善を積み重ねて、ムーブメントのサイズダウンが図られたのである。
シングルバレル化と同時に
伝達効率も高めた
オフセットマジックレバーをシングルバレルに対応するようレイアウトを変更。オフセット化することで落ちてしまう巻き上げ効率は、歯車の形状を見直し、回転軸の位置、太さを変えて適切化。また、ぜんまいの長さや幅、厚み、香箱体積比を再考することで、約72時間の持続時間と装着時に快適な低重心を実現。ワンピースセンターブリッジ構造により堅牢性も確保。ムーブメントを裏ぶたに近づけることで薄型化と同時にサファイアガラスから覗く美観にも配慮。受の稜線や端面、穴のまわりにはダイヤカットが施されており、回転錘には「SPRING DRIVE ULTRA FINE ACCURACY」が刻まれている。
エボリューション9 コレクション SLGB003
9RB2ムーブメントの搭載により、ケース径37.0mmという、キャリバー9R搭載モデルの中で最も小さいサイズを実現。9RA系よりもダイヤルリングを薄くし、ボックス型サファイアガラスを採用、広いダイヤル見切りを確保した。ブライトチタン製のケース・ブレスレットを採用し、ダイヤルには、澄み切った雪原に林立するスプリングドライブの製造地である信州地方の樹氷の美しさを、精緻な型打模様で表現。
グランドセイコーにふさわしい性能を有する9Rスプリングドライブの誕生(2004年)から進化を続けて、ついにぜんまい駆動式の腕時計として世界に先駆けて年差という高い壁を越えたキャリバー9RB2が完成した。日本が誇る世界最高レベルの機械式時計と世界初のクオーツ時計の技術、それらを融合したスプリングドライブは、今後も研究・開発が続く。