鏡面と稜線。

SBGR001
視覚的なシャープさを保ちながら、物理的な鋭さを除去すること。その困難な課題に応えられるのは、一流の研磨職人だけであるという。

鏡面と稜線。

視覚的なシャープさを保ちながら、物理的な鋭さを除去すること。その困難な課題に応えられるのは、一流の研磨職人だけであるという。

美しい「エッジ」を立てるために。

機械式のキャリバー9Sを搭載するグランドセイコー、その数々のモデルを研磨してきた名人S氏に尋ねた。歪みのない鏡面下地を仕上げるのに、ザラツ研磨以外の方法はないのでしょうか? すると、S氏は即答した。「ありません」

スイスにあったザラツ兄弟社の研磨機が、日本に導入されたのは半世紀以上前。いつしか研磨の職人たちは、その研磨機を使う工程そのものを「ザラツ」と呼ぶようになった。鏡面仕上げの下地をつくるザラツは、セイコースタイルの要といえる。

それにしても研磨の方法は多種多様であるのに、なぜザラツでなければならないのか? それはグランドセイコーの面と面が、シャープな稜線で接しているからである。鏡面への最終仕上げはバフ掛けという工程だが、バフ掛けをすればするほど、稜線の視覚上の鋭さが失われてしまう。つまり「角」がとれてしまうのだ。そのバフ掛けを最小限にとどめるため、ザラツで超平滑な面をつくっておく必要がある。

S氏が新しいグランドセイコーの試作をしている仕事場に、そのデザインを担当したK氏が訪れる。そして研磨の細部についていくつかのポイントを指摘する。それはきまって、S氏自身にも迷いが残ったところだ。「現場を知っているから、不可能な注文はありません。ただ難しい注文は多いです。そのおかげで我々も腕を磨かせてもらっている、と思います」。寡黙なS氏は静かにそう言った。

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