more about Caliber 9F【キャリバー9Fを読み解く】
秒針を美しく動かす機構とは。
歯車を使うメカニズムは、必然的にバックラッシュを伴う。しかし、それを減らす方法はいくつか考えられてきた。キャリバー9Fのバックラッシュ・オート・アジャスト機構は、通常の駆動輪列(動力を伝える歯車で構成されるメカニズム)にひげぜんまいを組み込んだ歯車(制動車)を加え、輪列全体に回転方向とは逆のトルクを与えることで、歯車間の「遊び」を強制的に極小化する。ばねを利用してバックラッシュを減らす機構は自動車のエンジンにも見られるが、発想としては近いかもしれない。つまり、機械式腕時計の精度を担ってきたひげぜんまいに、クオーツ時計の「針の動きの精度」を高める、というもうひとつの仕事が与えられたのだ。
「3軸独立ガイド機構」とは何か。
キャリバー9Fには、時刻合わせをするときの針の「立ち居振る舞い」に焦点を合わせた「3軸独立ガイド機構」も組み込まれている。一般的な腕時計では時刻合わせをするためにりゅうずを引き出して回すと、その力は時を刻む場合とは異なる経路で伝達され、静止しているべき秒針がぴくぴくと動いてしまうことがある。キャリバー9Fの3軸独立ガイドは、3つの針を回すそれぞれの軸が干渉しない構造のため、そのようなことが起こらない。しかし、その精確な動きを見る機会は残念ながら、多くない。なぜならキャリバー9Fは時刻合わせの必要が、ごくたまにしかないからだ。
針の重さを克服した、ツインパルス。
クオーツは機械式と較べるとトルクが低いため、針は細く軽いのが常識だが、キャリバー9Fの針は太く重い。精度と同等に時刻の読み取りやすさでも最高峰を目指したからである。そのために開発されたのがツインパルス制御モーターで、コロンブスの卵のような発想に基づいている。一般的なクオーツは、1秒に1回、針を動かす。角度でいえば1秒は6度に相当する。動かす角度を小さくすれば、必要なトルクも小さくなる。そこでキャリバー9Fは1秒に2回、針を動かすことにした。1秒に1回、というクオーツの一般常識を捨てることで、不可能とされていた重い針を動かす力を手に入れたのである。