more about Caliber 9F【キャリバー9Fを読み解く】

初代グランドセイコー(1960年)
初代グランドセイコー(1960年)

「グランドセイコー」の誕生。

左の写真はグランドセイコーの初代モデルである。発売されたのは、翌年に腕時計の輸入自由化を控えた1960年のことだった。世界と肩を並べ、そして追い越す高精度の腕時計をつくるために、独自技術の開発を着々と進めてきたセイコーの自信と意気込みは、「グランド」を冠したその名前からうかがい知れる。ロゴマークの下には「Chronometer」と表記されていたが、これは当時クロノメーター優秀級と同等の精度検査を実施し、それに合格した証しだった。この初代モデルの裏ぶたに施されていたオーナメントは「咆哮する獅子」の紋章。そしてそれは現在も、ごく一部のモデル以外のすべてのグランドセイコーに継承されている。

セイコー クオーツ アストロン(1969年)
セイコー クオーツ アストロン(1969年)

「クオーツ」が高精度である理由。

水晶振動子に電圧をかけると規則的に振動する性質がある。その正確な振動をICが電気信号に変換、その信号を利用してモーターを駆動し時計の針を動かす。これがクオーツの仕組みの概略だ。その振動数は一般的には1秒間に32,768。機械式の高精度ムーブメントの振動数でも1秒間に8あるいは10。単純比較はできないが、桁違いの精度の理由は水晶の振動数にある。半端な数に見えるが上記の振動数は2の15乗。二進法ではキリのいい数字である。セイコーは世界初の実用的なクオーツ腕時計を開発し、特許を惜しげもなく公開した。その結果、現在世界で生産されるアナログクオーツウオッチのほとんどがセイコー方式を採用している。

外観も美しいキャリバー9F83(1993年)
外観も美しいキャリバー9F83(1993年)

「キャリバー9F」は、
なぜ究極のクオーツなのか。

1993年に初めて搭載されたキャリバー9F83は、年差±10秒という高精度を誇ったが、これはこのムーブメントの美点のごく一部でしかない。もちろんこの精度を達成するためには膨大な技術が注ぎ込まれているのだが、それにも増してキャリバー9Fがそれまでの薄く軽く大量に生産できる、というクオーツの「利点」と決別したのがエポックメイキングだった。見やすい堂々とした針、瞬間日・曜日送りのカレンダー。ブレのない美しい針の動き。りゅうずのクリック感。耐久性。数々の新機軸のメカニズムをムーブメントに組み込むことで、精度だけでなく、日々の腕時計と人との接点すべてを洗練させることを目論んだ稀有な存在であると言えるかもしれない。