針の重さ。
針の重さ。
それは、ひとつの問いかけから始まった。
その企画は、ひとつの素朴な問いかけからスタートしたという。それは「いい腕時計とはなんだろう?」だった。まず正確であることに異論はない。次に、いくら正確でも時刻が読み取りにくければ意味がない、という意見が出た。暗がりで、わずかな光でも捉えるには、太くて大きな針がいい。でも、とエンジニアは言った。そんな重い針は回せませんよ。
かつて腕時計の価値は精度で決まった。そのヒエラルキーを破壊したのは水晶振動子を使うクオーツ技術だった。クオーツは、高価な機械式腕時計が達成した精度を軽々と凌駕してしまったが、たとえば、そのとき話題になった大きく重い針を動かすほどのトルクは発揮できない。当時はそれが常識だった。
開発陣の話し合いは続いた。私たちがつくりたいのは“最高のクオーツムーブメント” ではなく、年差という高精度を活かした“グランドセイコーのムーブメント”なのだ。だから、機械式にできてクオーツにできないと言われることを、ひとつずつ潰していこう。
そこからエンジニアたちの奮闘が始まる。大きく重い針をどう動かすか。カレンダーは瞬間で切り替えたい。秒針を美しく動かすには。数々の技術的ハードルを乗り越えた結果、分厚く、ずっしりと重量感がある、つまり、それまでの薄く軽いクオーツとは似ても似つかないムーブメントが完成した。現在のグランドセイコーに搭載されているキャリバー9Fは、こうして誕生した。
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