グランドセイコーの新境地を拓く 「Evolution 9 Collection」

グランドセイコーが手掛ける
スポーツモデルの核心を問う

Vol.2

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グランドセイコーのデザイン理念である「セイコースタイル」を昇華させた、新しい「Evolution 9スタイル」。グランドセイコーはこのデザインを新たなコレクションに展開させただけでなく、スポーツモデルにも組み込んだ。グランドセイコーが提案するのは、これまで貫いてきた日本的なスポーツウオッチの進化形だ。

極めて日本的な価値観に根差したスポーツ概念を具現化した
Evolution 9 Collection スポーツモデル
極めて日本的な価値観に根差した
スポーツ概念を具現化した
Evolution 9 Collection
スポーツモデル

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グランドセイコーの商品企画を担当するのが、セイコーウオッチ商品企画の江頭康平だ。2011年にグランドセイコーに関わって以降、彼は「44GS現代デザイン」や「ブラックセラミックスモデル」といったさまざまなモデルを開発してきた。そんな江頭が今回手掛けたのが、Evolution 9スタイルをベースにした、新しいスポーツコレクションである。

SLGH005で「Evolution 9スタイル」を完成させたグランドセイコーは、これをどのように発展させるかを考えていた。グランドセイコーの商品企画を担当する江頭康平はこう語る。「Evolution 9の延長線上として、スポーツモデルを作るというアイデアはありました。しかし、単にスポーツにするだけでは意味がない。では、そもそもスポーツウオッチとは何なのか、から考えました」。

彼がスポーツウオッチの原点に立ち返ったのには理由がある。「Evolution 9とはグランドセイコーをリードするコレクションです。だから、Evolution 9のスポーツモデルも、スポーツとは何かを示す存在でないといけない」。

それ以前も、グランドセイコーにはスポーツモデルが存在した。2005年のスプリングドライブ GMTや、07年のスプリングドライブクロノグラフなどだ。しかし、これらのモデルは、スポーツウオッチと謳われてはいなかった。「私たち開発チームも、グランドセイコーのスポーティーなモデルをスポーツモデルとは意識していなかった」と江頭は率直に語る。

江頭がスポーツウオッチに対して求める条件は明確だ。「ヘリテージコレクションは歩く人、エレガンスコレクションは佇む人。スポーツコレクションは走り続ける人を想定した腕時計です。もし走っていても時刻をすぐに判読でき、もたつかずに時間を確認できるデザインを持つこと」。もっとも、そこに至る道程は、決して平坦ではなかった。

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武道に始まる日本のスポーツ観が
価値を置くもの

「グランドセイコーがブランドとして独立して以降、日本の価値観が海外で注目されるようになりました。いわゆる『雪白』ダイヤルが良い例ですね。であれば、スポーツウオッチに対しても、もっと日本的な価値観を盛り込んでいいのではないか、と思ったのです」(江頭)。

江頭は、日本の美意識とは何なのか、というマトリックスを作り、そこに日本的なスポーツの在り方を落とし込んでいった。「日本の美意識にあって、スポーツという行為は、ほかの事柄から分断されていないことに気づきました。例えば武道は、茶道や歌道と密接につながっている。中心にあるのは時で、武道であれ、茶道であれ、歌道であれ、私たちは時の移ろいの中で見いだされる変化に美しさを覚える」。

最終的に見いだしたキーワードが「規律」だった。グランドセイコーと日本の自然観、そして規律は結び付く、と江頭は強調する。ではなぜ、規律が日本的なスポーツになるのか?

「Evolution 9をデザインした酒井清隆は、学生時代に弓道をやっていました。彼は言うんです。『的に当てたいならば、的を狙ってはいけない。平常心で正しい手順を踏めば、自ずと的に当たる』と。的を射るのではなく、その決まった動作に意味がある。点数を競うのではなく、他者と争うのではなく、自己を研鑽して、今までの自分を乗り越えていく。これこそが日本的なスポーツの在り方だ、と思いました」

江頭が言う、規律であり形(かた)である、という日本的なスポーツの在り方。それを具体化したのが、視認性、操作性、そして強靭さという要素だった。もちろん、これらの要素はグランドセイコーの特徴である。しかし、江頭たちは、それをもう一段引き上げようと考えたのである。

<Ⅰ.“GSスポーツ”が求める視認性>

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今までのグランドセイコー以上に高い視認性を誇るのが、Evolution 9 Collection スポーツモデルだ。から、「スプリングドライブ GMT」「スプリングドライブクロノグラフ GMT」そして「スプリングドライブ 5 DAYS ダイバーズ」だ。今まで以上に強調されたインデックス、針とインデックスに十分充填されたルミブライト、あえてメリハリをつけた時分針、さらに読み取りやすいオリジナルの書体を持つ。

「多くのスポーツモデルは、高揚感を演出することが強調されています。着けているとテンションが上がるからですね。しかし、腕時計は、あくまでも使う人に寄り添うものです。ですから私たちは、新しいグランドセイコーのスポーツウオッチに、次のような要素を盛り込みました。振動が多い状況でも時刻が見やすく、直感的に操作でき、そして頑丈であること」(江頭)

Evolution 9スタイルの祖であるSLGH005は、あえて12時位置のインデックスを太くしていた。その幅は、普通のインデックスに対して2.5倍。太いインデックスは、このモデルにフラッグシップモデルらしい威厳を加えることに成功した。

対してEvolution 9 Collection スポーツモデルでは、12時位置だけでなく、すべてのインデックスが大きくされた。加えて、すべての溝に、蓄光塗料のルミブライトを充填している。

「Evolution 9スタイルとは、すべてのプラットフォームになるものです。今回は、その針をプラス方向に振りました。特に視認性については、もう一段引き上げました」(江頭)

それを示すのが、Evolution 9 Collection スポーツモデル独自の書体だ。今までの書体は太くしたボールド。対して、グランドセイコーのデザイナーたちは書体を一から作り直した。初めてではないが、非常に珍しい(江頭)という試みは、より優れた視認性を得るためだ。

針も同様である。そもそもEvolution 9のデザインは、先端を切り落とした時針と、先端を伸ばした分針を持つ。切り落とした時針は、瞬時に時刻を見るためのもの。そしてインデックスまで届いた分針は、正確な時刻をチェックするためのものだ。加えてEvolution 9 Collection スポーツモデルでは、時針を太くする一方で、分針を細くしている。また分針と秒針は、先端を曲げることで、斜めから見た際の視認性を改善している。瞬時に時刻を読み取れるだけでなく、しっかり見ると、正確に時刻を把握できるようにしたのが新しい。

もっとも、「スポーツウオッチとしてのストイックさを追求するのではなく、腕時計を着ける人の夢や、日本的な要素も加えたかった」と江頭は語る。それを示すのが、ダイバーズウオッチSLGA015のダイヤルだ。

「このダイバーズウオッチには日本の自然観を盛り込みました。日本という国は海に囲まれ、沿岸の巨大な海流が日本の気候風土、文化にも影響を与え、多くの恵みをもたらしてきました。その力強さとおおらかさを表現したかった」。ダイヤルに採用されたのは、黒潮のパターンである。しかし、あえて模様を抽象的にしたのは「日本的なものの見方は具象ではなく抽象。抽象の中に余白を残すのが日本的」という江頭の考えを反映したものだ。確かに黒潮のパターンは、言われなければ分からないほど抽象的だ。

ダイヤルの仕上げも改められた。採用されたのは、グランドセイコーではおなじみの、厚塗りしたラッカーを研ぎ上げたものだ。しかし、今までのラッカー仕上げとは異なり、表面のつやはあえて落とされている。鏡面仕上げにしたインデックスとのコントラストを高めることで、視認性はさらに改善された。もっとも単に視認性だけを重視したわけではない。「ダイヤルをくもりガラスのように仕上げることで、ダイヤルの奥行きが消えないようにした」と江頭は述べる。

<Ⅱ.“GSスポーツ”が求める操作性>

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から、「スプリングドライブ GMT」「スプリングドライブクロノグラフ GMT」そして「スプリングドライブ 5 DAYS ダイバーズ」のケースサイド。溝を大きく取ったハイグリップりゅうずのおかげで、りゅうずの操作性は大変優れている。また、りゅうずガードの切り欠きを大きく取り、上面と下面を斜めに処理することで、りゅうずにアクセスしやすい。

操作性にもさらに手が入れられた。走っているときに時刻を確認できるのがスポーツコレクションと江頭が説明した通り、このスポーツモデルは激しい振動を受けても時刻が分かるようになっている。そのため、りゅうずはつかみやすいよう、刻みを強調したハイグリップりゅうずに変更された。また、りゅうずを保護するため、ケースには大きなりゅうずガードが設けられた。「ケースとりゅうずガードは別々の部品にしたほうが磨きやすいのです。しかしケースが大きくなってしまう。そこで、あえてケースとりゅうずガードを一体化しました」。りゅうずガードがありながらも、りゅうずにはアクセスしやすい。なるほど、操作性にも配慮したというのは納得だ。

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ダイバーズウオッチのSLGA015には、既存のグランドセイコー専用ダイバーアジャスター付きバックルを使用。セーフティーキャッチの付いたバックルに微調整機能を加えるのは難しいが、グランドセイコーはそれを実現している。写真が示す通り、バックルはダイバーズウオッチらしからぬほど薄い。

操作性を示すもうひとつのポイントが、ダイバーズモデルに採用されたアジャスター付きのバックルである。三つ折れのバックルには、微調整機能が備わっている。これは従来のグランドセイコーのダイバーズウオッチと同じではあるが、薄く設計されているため、デスクワークの邪魔になりにくい。操作性と装着感への配慮は、新しいEvolution 9 Collection スポーツモデルの際立った特徴だ。
クロノグラフのプッシュボタンも同様だ。今までのグランドセイコーは、プッシュボタンのがたつきを抑えるため、ボタンの外周に枠を加えることが多かった。対して新しいEvolution 9 Collection スポーツモデルのクロノグラフでは、操作性を高めるため、これらの枠を省略し、プッシュボタンを限りなく大きくしている。短いストロークと大きなボタンのおかげで、このクロノグラフはより正確に時間を計測できる。

<Ⅲ.“GSスポーツ”が求める強靭性>

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の「スプリングドライブ GMT」の特徴が、立体的なサファイアガラスである。サファイアガラスをボックス状に盛り上げることでケースの重心が下げられるほか、不用意に腕時計をぶつけても、ベゼルが傷みにくい。中央の「スプリングドライブクロノグラフ GMT」は回転ベゼルの表示板部分にドーナツ状のサファイアガラスを使用しており、こちらも堅牢性に配慮した。の「スプリングドライブ 5 DAYS ダイバーズ」はダイバーズの回転ベゼル表示板の素材で初めてセラミックスを採用しており、当然、傷が付きにくい仕様となっている。

江頭は、Evolution 9で重視したのは、長く使えるバリューだと語る。そのために盛り込まれたのは、素材の強靭さと装着感だった。「Evolution 9 Collectionのスポーツモデルは、軽さと硬さを重視して、ブライトチタンを素材に選びました。これは最初からの決定事項でした」。

グランドセイコーに用いられるブライトチタンは、一般的なチタン合金に比べて質感が高く、しかもより強靭だ。グランドセイコーはEvolution 9 Collectionのスポーツモデルに、うってつけの素材を採用したのである。

装着感への配慮は際立っている。軽い素材を選ぶことで、Evolution 9 Collectionのスポーツモデルは、そもそも軽快な着け心地を得た。加えて開発チームは、「スプリングドライブ GMT」には立体的なボックスガラス、「スプリングドライブクロノグラフ GMT」にはデュアルカーブガラス、「スプリングドライブ 5 DAYS ダイバーズ」にはフラットガラスを与えた。江頭はこう述べる。「人の動きの中での最適な形状を探りました。スプリングドライブ GMTはボックスガラスを使って重心を下げ、あえて立体的なガラスとすることで、堅牢性を保つ。スプリングドライブクロノグラフ GMTは回転ベゼルと計測機能付きというGS史上最も多機能であるにもかかわらず、無駄な肉を削いで、干渉しない大きさにまで小型にした。スプリングドライブ 5 DAYS ダイバーズはベゼル表示板にセラミックスを採用しました」。モデルごとに工夫されたこれらの点はすべて人の所作を考慮して、サイズ感や素材を追求した結果である。

装着感への配慮は、Evolution 9 Collection スポーツモデルのデザインを進化させた。今までのグランドセイコーに比べて際立つのは、平面を強調したデザインである。とりわけ、かん足は短く切り落とされている。

「今回は、かん足がもたつかないデザインを目指しました。強いて言うと、平面的なデザインにしました。かん足の先端もいきなり落としています。また、併せて鏡面部分のボリュームを抑えた結果、ストイックなデザインになりました」(江頭)

新しいEvolution 9というプラットフォームを、さらに拡張したEvolution 9 Collection スポーツモデル。グランドセイコーは、規律であり、形(かた)であるという日本的なスポーツの在り方を、視認性、操作性、そして強靭さに昇華してみせた。今後も、このコレクションは拡大するだろう。そして、今までのスポーツウオッチの在り方に、大きな一石を投じるに違いない。