GS Grand Seiko

PRODUCT STORY 2ほどけながら巻き上がる、
ぜんまいの魔法。

「トルクリターンシステム」は、2008年に「クレドール 叡智」用ムーブメント、キャリバー7R08の中で開発された。それをキャリバー9R02のために改良して、フル巻き上げの状態から約48時間、精度と運針に影響のない約30%の力を使って、ぜんまいがほどける力でぜんまい自らを巻き上げる。この機構と「デュアル・スプリング・バレル」でキャリバー9R02は約84時間の持続時間を実現した。

この革新的なメカニズムは高橋理の頭の中に最初から「図」として現れたという。細部を詰めて試作すると、期待通りに動くことが確認できた。その後、摩擦を減らす手作業を施すと、目的の数値が達成できた。エポックメイキングなぜんまいの機構が、スプリングドライブに誕生したことは感慨深い。

キャリバー7R08 トルクリターンシステム図
トルクリターンシステム(図は7R08)。フル巻き上げの状態から約48時間(7R08は約35時間)経過すると、切離しレバーが作動してトルクリターンシステムをオフにする。

縁と穴、
その仕上げの美しさに息を呑む。

腕時計を動かす歯車は、軸の片方を「地板」に、もう一方を「受け」によって保持されている。地板と受けの間のわずかな空間で数百の微細な部品が回転したり、力を貯めたり解放したりしているのだ。写真のキャリバー9R02では、大きな受けはいちど鏡面に磨き上げてから切れ目のない精緻な筋目を入れている。仕上げの達人による手仕事は、もちろんそれだけにとどまらない。受けの縁をポリッシュして仕上げる作業を「面取り」と呼ぶが、鋭角に切れ込んだ面を、高山植物の茎で鏡面に磨いていく。そして歯車の軸を受ける「石」やねじ穴の周囲も美しく鏡面に仕上げる。筋目による落ち着きと鏡面による煌き。それがこのムーブメントに、世界最高レベルの工芸美を与えているのだ。

手作業で磨き上げられた「入角(いりかく)」と呼ばれる鋭角部。細部に至るまで入念に仕上げられている。