4本目の針への飛躍。

イエローのGMT針をもつ9F86搭載機
イエローのGMT針をもつ9F86搭載機。難題は、キャリバー9Fの特徴である「瞬間日送り機構」と、時針単独修正機能の両立だったという。

4本目の針への飛躍。

イエローのGMT針をもつ9F86搭載機。難題は、キャリバー9Fの特徴である「瞬間日送り機構」と、時針単独修正機能の両立だったという。

それを可能にした、たったひとつの部品。

グランドセイコーの最新キャリバー、9F86では、4本の針がそれぞれの速度で動く。速い順に秒針、分針、時針、最も遅いのがGMT針である。GMT針は時針の半分の速度で24時間かけてダイヤルを一周する。異なる時間帯を表示するGMT機能は、25年前に初代のキャリバー9Fが開発されたときにも搭載が検討されたという。その理由を9F86の開発陣を率いたK氏はこう語った。

「たとえば時差のある国に行って、時針を現地時間に合わせる。そのとき普通の時計ならどうということもないわけですが、9Fは年差です。秒単位で正確に時刻合わせをしてあっても、りゅうずを引き出している間は時計が停まるので、そのぶん遅れることになる。せっかくの年差という高精度を活かすためには時計は動いたまま時針だけ動かせるGMTがいい。そう考えていました」

K氏は25年前のキャリバー9F開発チームのサブリーダーでもあったが、その時点でのGMT機構搭載は実現しなかった。9Fの瞬間日送り機構とそれと連動する時針単独修正機能は、どちらも「ジャンパー」という小さな板ばねを必要とするが、時針側のジャンパーの強度が確保できなかったからである。

25年という歳月が流れ、新しいキャリバー9Fの開発を託されたK氏が必要としたのは、十分な厚みをもつ「ジャンパー」だった。しかしこの部品、従来の製造方法では求めている形状に加工できず、強度が確保できないことがわかった。そして、「信州 時の匠工房」の部品生産技術チームの試行錯誤が始まった。

「とにかく開発の鍵は、この小さな部品ひとつが握っていました。その製造法はまだ公開できませんが、私自身はGMTができたことでキャリバー9Fはさらに完全に近づいた、と思っています」とK氏は言う。その小さな部品はその名前どおり、キャリバー9Fを大きく飛躍させたことになる。

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