キャリバー9Sという小宇宙。

キャリバー9Sのパーツの一部
キャリバー9Sのパーツの一部。「ほぞ」と呼ばれる軸の先端部分の直径はわずか0.1㎜しかない。その部品の精度と強度が、腕時計のメカニズムを支えている。

キャリバー9Sという小宇宙。

キャリバー9Sのパーツの一部。「ほぞ」と呼ばれる軸の先端部分の直径はわずか0.1㎜しかない。その部品の精度と強度が、腕時計のメカニズムを支えている。

それは、200以上の部品で構成されている。

「マニュファクチュール」という言葉を耳にする機会が増えた。腕時計をムーブメント部品から一貫製造するメーカーという意味だが、古くから分業の進んだスイスでは、ムーブメントを他社から調達して組み込むウオッチメーカーが多く、それと区別するためにそういう呼び名がある。

数少ないマニュファクチュールであるセイコーは、半世紀以上前から主要部品である動力ぜんまいやひげぜんまいなど、金属素材の開発までも手がけてきた。スイスと比べれば歴史の浅い日本で、世界最高レベルの腕時計を志せば、すべての部品を自分でつくる以外の選択肢はなかったのだ。

たとえば10振動のキャリバー9S85は221の部品から構成されている。そのうち精度を左右するふたつの重要パーツは半導体の微細加工技術を応用した最先端テクノロジーで成形されるが、残る部品の多くは、切削などの精密工作機械でつくられる。マシン加工の後、部品表面を1000分の5㎜ほど「剥く」工程があり、それらは専門の職人により行われる。

部品の組み立て工程も1㎜以下のサイズが多く、職人の手仕事でしか組み上げることはできない。精度を調整する工程も数々あり、なかでも、てんぷの「ひげぜんまい」の振れ取りは、人間の感覚に依存する最も重要で最も困難な作業である。

グランドセイコー専用のキャリバー9Sは、精密加工技術の精髄と高度な職人技のどちらが欠けても成立しない。「マニュファクチュール」とは単なる生産体制ではなく、技術と人間と歴史が織りなすひとつの生命体であるらしい。

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