年差の先へ。

年差という高精度を誇るキャリバー9F
年差という高精度を誇るキャリバー9F。非常な高温や低温が続く状態などで誤差が生じる可能性を考慮し「緩急スイッチ」が搭載されている。

年差の先へ。

年差という高精度を誇るキャリバー9F。非常な高温や低温が続く状態などで誤差が生じる可能性を考慮し「緩急スイッチ」が搭載されている。

クオーツは精度調整できないという誤解。

振り子の等時性の原理が発見されたのは、1583年。現在の機械式腕時計の精度を司る「てんぷ」も、「ばね振り子」であるから、いまだにその原理を利用している。調速機構に振り子の原理を使わないムーブメントを代表するのが、20世紀に登場したクオーツである。

しかし、その高精度を維持するのは簡単ではない。水晶からつくられる超小型の音叉型水晶振動子にはどうしても個体差が生じてしまう。そのなかからキャリバー9Fにふさわしい高精度を維持できるものを選別するのである。その方法は「エージング」。水晶に90日間、通電し、振動させ続ける。その間、加工段階で生じたひずみが解消され、本来の性能が出てくる。そこで初めてキャリバー9Fに搭載する水晶振動子が選ばれる。いわば90日間の修業をするのである。

機械式腕時計のてんぷは、重力と腕の動きに強く影響を受けるが、水晶振動子は温度の変化で振動数を変えてしまう。そこでキャリバー9Fは1日に540回、ムーブメント内部の温度を測り、水晶の振動数のずれを微妙に調整する。この機構なしで年差の実現は極めて困難だ。

その上、さらにキャリバー9Fには「緩急スイッチ」という機構が搭載されている。機械式ムーブメントの緩急針と同じく精度を調整するためのものである。年差とはいえ環境によっては進み遅れが生じない、とは限らない。その万が一に備えての機構だ。

ところがキャリバー9F搭載のグランドセイコーが発売されてから25年、この機構を必要とするほどの誤差はいまだ報告されていない。あなたはこの機構は無駄なのだ、と考えるだろうか。それとも、いかにもグランドセイコーらしい機構だ、と考えるだろうか。

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