Culture
Produced by PEN for Grand Seiko

2021.08.04.WED

  • Facebook
  • LINE

【アートでひも解く、グランドセイコーのデザイン哲学】Vol.1

「自然」と「色」の関係を示唆する名和晃平の彫刻

SLGH005

キレのあるシャープな造形のケースや大きくて視認性に優れる針、インデックスといったグランドセイコーらしいデザインの中に、ニュアンスのある白いダイヤルを合わせた「SBGA211」。雪白ダイヤルと呼ばれる美しいダイヤルには、自然と共生しながら生きる、日本らしい美意識が宿っている。

人間の奥底にひそむ情熱や感情を表現したものを“アート”と呼ぶのであれば、時計もアートなのかもしれない。太陽の規則的な動きから導き出された“時間”という概念は、日時計や水時計を経て、正確な時間を刻むために機械仕掛けの時計が14世紀ごろに生まれる。この不思議な機械を所有し、身につけたいという情熱によって時計は小型化され、懐中時計を経て、20世紀初頭には腕時計の時代が始まった。時計とは、時間という目には見えないが確かに存在し、人々の生活の軸になる概念を可視化させるためのものである。しかもその美しさで人々を魅了してきた。さらに「グランドセイコー」は、そこに腕時計が生み出される地、長野と岩手の美しい自然を取り入れている。それは、現代アーティストである名和晃平の作品の世界観ともユニークな調和を見せるのだ。

  • 写真:星武志
  • 文:篠田哲生
  • 監修:青野尚子

「白」は地球にとってどのような意味をもつのか

Metamorphosis Garden(変容の庭)

「Metamorphosis Garden(変容の庭)」は、GINZA SIXの吹き抜け部分に展示されているインスタレーション。渦を巻くような不定形の島々と雫、そして生命の象徴である“Trans-Deer”がつくり出す世界は神々しいばかりだ。さらに振付家ダミアン・ジャレとの共作によるARのパフォーマンスが加わり、リアルと仮想が重なりあうインスタレーションとなっている。2022年4月末まで展示予定。Installation view, “Metamorphosis Garden”, GINZA SIX, Tokyo, Japan, 2021

名和晃平は1975年生まれの彫刻家。代表的シリーズ「PixCell」をはじめとする先鋭的な制作活動や空間表現を行ってきた。2009年に京都・伏見区に創作のためのプラットフォーム「Sandwich」を立ち上げ、さまざまなプロジェクトに携わっている。2018年にはルーブル美術館ピラミッド内にて「Throne」を展示した。

この作品「Metamorphosis Garden(変容の庭)」は、現在、GINZA SIXに展示されているインスタレーションで、生命と物質、その境界にある曖昧なものが共存する混沌とした世界をテーマにしている。作品中央に佇む鹿は、日本の美術史に時折登場する神鹿(しんろく)をイメージしている。神鹿の足元に広がる島々は、島国日本の「国生み」の神話に通じ、島々が渦を巻く様子は、瀬戸内海の海流に重なる。

名和はこの作品に、白い色をもつ「アルミナ」と「マイクロビーズ」を使用することで自然環境とのつながりを投影させた。

「地球を宇宙から見た時に、白く見えるのは、北極と南極の雪や氷、あるいは雲。環境を維持する上で、この白い部分がとても重要になります。対して、海は宇宙からは黒く見える。海が光や熱を吸収して、海流となってその熱を運んでいる。地表から白の面積が減ることは、太陽光の吸収率が変わってしまうことを意味し、結果環境のバランスを大きく左右してしまいます。白というのは、地球環境を考える上でのキーカラーなのだと理解しています」と名和は語る。

「SBGA211」の雪白ダイヤル

厳しい寒さと激しい風によって生じる雪面の凹凸を表現した「SBGA211」の雪白ダイヤル。イメージしたのは信州にあるグランドセイコーのスプリングドライブモデルが製造される信州 時の匠工房から見える北アルプスの山々だ。数十回を超える工程によって、細かな凹凸と、洗練された白いダイヤルをつくり出す。右写真:アフロ

グランドセイコーにも、自然との共生を“白”で表現したモデルがある。グランドセイコー ヘリテージコレクション「SBGA211」は、“雪白”と呼ばれるダイヤルが特徴だ(海外ではスノーフレークと呼ばれる)。このダイヤルが生まれた信州 時の匠工房はセイコーエプソン塩尻事業所内にあり、その社屋からは穂高連峰といった雄大な峰々が見える。雪白ダイヤルは、そこに降り積もった雪をイメージした。

気温の低い山肌に降り積もった雪は、硬く締まっており、しかも強い風に吹きつけられることで表層には荒々しい凹凸が生まれる。同じ雪であっても、平地に静かに降り積もった雪のやわらかさとはまったく違った、日本の厳しい自然環境を表現しているのだ。しかし日本の自然は厳しいだけではない。雪面に光があたった時に輝くその美しさは、見る人すべてを感動させる強さがある。

SLGH005

「SLGH005」は、「グランドセイコースタジオ 雫石」のある岩手県雫石町近くの白樺林を表現したモデル。

また、グランドセイコー ヘリテージコレクション「SLGH005」では、グランドセイコーの機械式モデルを製造する岩手県雫石町にある「グランドセイコースタジオ 雫石」からほど近い、雄大な白樺の美林をイメージした凹凸を表現した白いダイヤルを採用している。繊細さの中に力強さを秘めた模様は、型打ちによってつくられており、光の加減によって表情を変える。

「SBGA211」の雪白ダイヤルも「SLGH005」の白樺ダイヤルも、長野や岩手の厳しくも美しい自然がつくり出した時間の経過を表現することで、自然の尊さを問いかける。日本には、これほどまでに美しい腕時計があるのだ。

アートと腕時計を通じて、色と自然の関係を考える

PixCell-Reedbuck (Aurora)

「PixCell-Reedbuck (Aurora)」。透明な球体でオブジェクトの表面をすき間なく覆ったシリーズで、この作品はグリーンからパープルへと変化するように着色したリードバック(ウシ科の動物)の剥製を透明の球体で被覆している。ビーズのレンズ効果によってオブジェクトの表面は拡大され、歪曲し、分割される。そして、鑑賞者が視点を移動させることで、映像のように変化する。
PixCell-Reedbuck (Aurora)2020 mixed media 1131×1142×380 mm courtesy of SCAI THE BATHHOUSE photo : Nobutada OMOTE | Sandwich

自然との共生を考えると、“緑”という色も大切なキーワードになる。名和晃平の代表作である「PixCell」は、Pixel(画素)とCell(細胞)を合わせた造語。「PixCell」シリーズは、オブジェクトを透明の球体で覆い、その存在を「映像の細胞」に置き換える彫刻作品だ。全体が大小の球体で覆われることで表皮は個々のセルに分割され、レンズを通してオブジェクトが「鑑賞」される状態となる。この「PixCell-Reedbuck (Aurora)」は、リードバックの剥製に緑から紫へと変化していく塗装を施して、無数のCellで覆った。

「グリーン、すなわち植物も地球の環境に大きな影響を与えています。植物は茶色い大地を覆い、水分を吸収して、葉からの気化熱で地球を冷やしています。植物の緑色の正体はクロロフィルという物質ですが、哺乳類はこれをつくり出すことができません。一方で、哺乳類の肌の中にはメラニンという色素があり、紫外線の強さに合わせて肌の色が変化する。メラニンはオレンジからブラウンの色ですが、緑と補色の関係になっています。緑が多いところに花が咲くのは、虫や鳥に見つけられやすいためだそうです。動物も虫も鳥も、感じている色は違っていて、虫や鳥は紫外線も感じますし、蛇のように赤外線を感じる生物もいる。人間は緑の中にある花を見て、その美しさを感じ取りますが、他の生物にとってはその色の違いには意味がないのかもしれません。色というのは自然や地球、そして生命と深い関係にあるのです」

SLGH005

「SBGJ251」微細な凹凸によって、より深みのある表情を引き出したグリーンダイヤルに、ピンクゴールド色のGMT針を組み合わせる。GMT針は、筋目仕上げのため輝きを抑えており、山中にひっそりと咲く山桜の情景と重なる。

色と自然の関係を考えると、日本は色にあふれた国であることがわかる。日本の伝統色は1000近くあるといわれており、その微妙な差を楽しみ、生活に取り入れてきた。これだけ色彩感覚が豊かであるのは、日本の季節とも関係するだろう。大陸の東側に位置し、暖流と寒流が交わる位置にある日本は、四季どころか、一年を24等分する「二十四節気」で季節の移ろいを感じてきた。豊かな自然の恵みを楽しみ、ときにはその猛威を恐れ、そして敬意を払う。自然と生命の深い関係性は、日本文化に深く根ざしている。

グランドセイコー エレガンスコレクションでは、こういった季節の移ろいをダイヤルで表現したGMTモデルもラインアップしている。

「SBGJ251」は、昼と夜の長さがほぼ等分になる「春分(しゅんぶん)」をイメージしたモデル。これは3月21日頃にあたり、ちょうど森の木々たちが芽吹き始める時期でもある。ダイヤルは深みのあるグリーンにピンクゴールド色のGMT針を組み合わせることで、森の中で山桜が可憐に咲いている長閑な情景を写し取っている。

「SBGJ249」は、梅雨が明け、太陽がまぶしく輝き始める「小暑(しょうしょ)」を表現したもの。これは7月7日頃にあたり、南西からの白南風(しらはえ)の風が吹き始めると、水面にさざ波が立ち、暑い夏の訪れを知らせてくれる。そういった情景を、薄いブルーのダイヤルとブルーのGMT針で表現するのだ。

普段の生活の中では当然すぎて見逃してしまうが、日本は本当に豊かな自然をもつ国である。だからこそ自然とのつながりを、アートや時計を通じてもっと理解を深めるべきではないだろうか。

美しい自然と生命の営み、そして日本的な情景を見事にダイヤルで表現したグランドセイコーの腕時計や名和晃平のアート作品は、自然を想い、美しい時間を刻むにふさわしい。

移ろいゆく自然をダイヤルに写し取るグランドセイコー

SBGA211

SBGA211

[ Grand Seiko
Heritage Collection ]

詳細を見る

自動巻スプリングドライブ、ブライトチタン、ケース径41mm、ケース厚12.5mm、パワーリザーブ約72時間、10気圧防水。682,000円(税込)

SLGH005

SLGH005

[ Grand Seiko
Heritage Collection ]

詳細を見る

自動巻メカニカル、ステンレススチール、ケース径40㎜、ケース厚11.7㎜、パワーリザーブ約80時間、10気圧防水。1,045,000円(税込)

SBGJ251

SBGJ251

[ Grand Seiko
Elegance Collection ]

詳細を見る

自動巻メカニカル、ステンレススチール、ケース径39.5mm、ケース厚14.1mm、パワーリザーブ約55時間。814,000円(税込)

SBGJ249

SBGJ249

[ Grand Seiko
Elegance Collection ]

詳細を見る

自動巻メカニカル、ステンレススチール、ケース径39.5mm、ケース厚14.1mm、パワーリザーブ約55時間。814,000円(税込)