明日のメイドインジャパン vol.1

建築でも細かな気遣いで「日本らしさ」を表現
—— 永山祐子(建築家)

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単なる“日本製”という意味を超え、丁寧なものづくりや細部への心配りといった精神的な価値を投影させた“メイド イン ジャパン”が高く評価されている。建築家の永山祐子さんが、大切にしているものづくりと、これからの日本のクラフトマンシップについて語る。

Photos: 宇田川淳 Jun Udagawa Words: 篠田哲生 Tetsuo Shinoda

故きを温ねて新しきを知る

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「山名八幡宮」©︎Nobutada Omote
840年以上の歴史を持つ山名八幡宮は、安産と子育ての神社。リニューアルに際しては、地域のコミュニティの場となることも求められた。永山さんは授与所の他、本殿や神楽殿を手掛けた。

建築家の仕事は、新しい建物をつくることだけではない。永山祐子さんの場合は、群馬県高崎市にある山名八幡宮のリニューアルプロジェクトを通じて、日本のクラフトマンシップに触れた。

「古い建物の改修作業は図面が存在しないので、一つひとつ部材を外して構造を確認しながら作業をしていきます。そうすると例えば壁の下地などに、建物をつくった大工さんの工夫が見えてくるんです。当時は技術や材料も、現代ほど成熟していなかったはず。しかし材料や技術に限界があるからこそ、できる範囲で最大限の表現をしていたのでしょう。建物の端々からそういったクラフトマンシップを感じ取りながら、作業を進めていきました」

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永山さんお気に入りの「STGK007」は、企画やデザイン、設計から組み立てに至るまで、女性スタッフが中心となって生まれた。搭載されている小型の自動巻ムーブメントCal.9S27は、少ない運動量でも十分ぜんまいが巻き上がるように設計してある。

古いものをそのまま維持するのではなく、“生きた保存”をする。そのためにいにしえの職人たちと建物などを通じて対話を重ね、彼らのクラフトマンシップを理解しながら、その技術や技法、表現などを現代的に読み解いていく。

「例えば大判のガラスのような当時は存在しなかった技術や素材を、“新しいクラフトマンシップ”として応えていくという作業が必要です。いにしえの建物を見ていくと、棟梁の裁量がとても大きく、ディテールに遊びや細工といったある種の器用さを感じさせる仕掛けが多い。そういった作り手の気持ちを受け取り、尊重しながら、現代的な要素を積み重ねていくのです」

伝統技術のあり方は一つではない

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「玉響厨子」
©︎Mitsuyuki Nakajima
京都の仏壇・仏具メーカー若林佛具製作所が、クリエイターとともに“祈りのカタチ”としての新しい仏壇を提案するプロジェクト「raison d’être(レゾンデートル)」に参加。扉を開けることで先祖と繋がり、日常とは異なる時間の流れを作り出す。

永山さんは、京都の若林佛具製作所と一緒に仏壇「玉響厨子(たまゆらのずし)」を製作し、そこでも日本のクラフトマンシップに触れた。

「仏壇を作ることで初めて、木地師、蒔絵師、塗師など、多くの職人さんが関わっていることを知りました。個々の仕事場はとても小さいのですが、そういった職人の生活と街が一緒になっているのも面白いですよね。残念ながら生活スタイルや慣習が変化し、仏壇を持つこと自体がなくなりつつある。こういった技術を残していくためにも、例えば建築やインテリアの中に取り入れたいと思いますし、職人さんにも伝統技法で新しい表現をしてみようという積極的な人が少なくない。伝統技術も進化していく必要があるでしょう」

クラフトマンシップを過去のものとせず、現代社会の中で生かし方を考えることも大切なのだ。

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「2020年ドバイ国際博覧会 日本館」
©2020年ドバイ国際博覧会 日本
2022年3月31日に閉幕した「2020年ドバイ万博」の日本館の建築を担当。日本古来の美的感性である二等辺三角形の白銀比を巧みに取り入れたファサードが特徴。通常ならこういったパビリオンは期間限定の建築作品となるが、永山さんは解体し再利用できるように意識して設計している。

しかし、人や文化、技術に紐づいた“日本らしさ”は、社会構造や価値観が変化すると、あっという間に過去の遺物になりかねない。

「ドバイ万博の日本館では、あえて日本的な素材を一切使わず、一般的な素材で日本らしさをどこまで出せるかという挑戦をしました。静かに水面に映る景色などを尊重しながら上品で奥ゆかしい雰囲気でまとめ、水盤側から風が入ってくるように、一体の膜ではなく、小さなピースの膜で覆い、その風によって膜が揺れるようにその留め方まで考えています。こういった細かな気遣いが、日本らしいメッセージとして届いていたようです。本当に日本でしかできない職人技は大切に守りつつも、真のグローバルスタンダードになるには、奥ゆかしい表現や気配り、おもてなしといった哲学でも日本らしさを表現する必要があるかもしれません」

心配りを感じる、グランドセイコー

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永山祐子
1975年生まれ、東京都出身。98年昭和女子大学生活科学部生活環境学科卒業。98年青木淳建築計画事務所入社。2002年永山祐子建築設計設立。JIA新人賞、山梨県建築文化賞、東京建築賞優秀賞、照明学会照明デザイン賞最優秀賞などを受賞。主な仕事に「ルイ・ヴィトン 京都大丸店」「ドバイ国際博覧会 日本館」など。現在は、東急歌舞伎町タワー、東京駅前常盤橋プロジェクト「TOKYO TORCH」などのプロジェクトが進行中。

アクセサリーであれ時計であれ、身に着けるものは身体の一部になってくれるものを好むという永山さん。

「メタルのブレスレットが体温で温まり、自分の身体に馴染んでくる感覚がありました。使い心地にすごく敏感で、気配りが届いている。先を読んで“ここまでしてあげよう”という気持ちがデザインに表れているように思います」

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