明日のメイドインジャパン vol.22

アナログな手作業がコラージュをアートにする
—— 河村康輔(コラージュアーティスト)

河村康輔(コラージュアーティスト)

ユニクロのTシャツブランド「UT」のクリエイティブ・ディレクターを務め、アンダーカバーやアディダスとのコラボレーションアイテムからディスクメディアジャケットのアートワークまで、縦横無尽に作品を発表しているコラージュアーティストの河村康輔さん。「制作の根幹には手作業がある」と話す河村さんが、版画制作において絶対の信頼を置くシルクスクリーン工房の360°GRAPHICSを訪ね、ものづくりに対する思いを語った。

Photos: 清水将之(mili) Masayuki Shimizu
Words: 海老原光宏 Mitsuhiro Ebihara

遊ぶことが制作のインスピレーション

360°GRAPHICSを主宰する伊丹裕さんとは、コロナ禍前以来の対面。現代美術作家である伊丹さんは、独自に開発したネオシルクという新しい技法により版画表現の領域を拡げながら、同時に世界観の領域をも拡げられるような作家との共同作業として版画制作を行っている。
 
360°GRAPHICSを主宰する伊丹裕さんとは、コロナ禍前以来の対面。現代美術作家である伊丹さんは、独自に開発したネオシルクという新しい技法により版画表現の領域を拡げながら、同時に世界観の領域をも拡げられるような作家との共同作業として版画制作を行っている。

20歳の頃からコラージュ制作にのめり込んだ河村さんは、独学で習得した写真の編集・加工アプリケーションを使い、作品の素材となるビジュアルをパソコンで切り抜き、組み合わせ、グラフィックをつくり始めた。7~8年続けた後、今度は自分の手で同じ作業を行うようになったそうだが、意外にもこのアナログ手法のほうがデジタルで作業をするより楽なのだという。

「アナログだと切って貼ってがすぐにできるから、スピードが全然違う。脳とコラージュが直結する感覚があるんです。手を動かす行為は、写真を壊してまた再構築するシュレッダーシリーズなどの新しい手法にもつながっていきました。今はデジタルの重要性もわかってきて、手とパソコンをバランスよく使って制作しています。最近はペンタブレットでビジュアルを切り抜くのにハマっています。手で切り抜く時はデザインナイフを使うんですが、ペンタブレットはこれに近い感じがして、アナログとデジタルの中間的手法として楽しんでいます」

ラメやガラスによる煌めき、砂鉄による立体感など、さまざまな質感が平面に奥行きを生むネオシルク版画を間近に見て驚嘆する河村さん。草間彌生や田名網敬一、横尾忠則ら大御所から、小松美羽、友沢こたおなど若手アーティストまで、伊丹さんが手がける作品は幅広い。
 
ラメやガラスによる煌めき、砂鉄による立体感など、さまざまな質感が平面に奥行きを生むネオシルク版画を間近に見て驚嘆する河村さん。草間彌生や田名網敬一、横尾忠則ら大御所から、小松美羽、友沢こたおなど若手アーティストまで、伊丹さんが手がける作品は幅広い。

アナログにしてもデジタルにしても、緻密な絵づくりが河村さんの作品の特徴だ。膨大な時間がかかりそうだが、構想はすぐにまとまり、手を動かしながら「自分が気持ちいいか、気持ち悪いか」という自身の感覚を頼りに作品を完成させる。多くのコラージュをアウトプットし、新しい手法も生み出す河村さんのインスピレーションの源はどこにあるのだろうか。

「遊んでいることですね。僕にとっては、旅行や食事などと仕事が同列なんです。作品の締め切りが迫っていても、面白そうな誘いがあればそっちに行くし、逆に魅力的な誘いがあっても、切り抜きしたかったらコラージュをつくる。仕事も遊びも寝ている時に見る夢も、すべてがインスピレーションです。行き詰まった時は、制作することにつまらなさを感じている時ですが、そんな時のリカバリー方法も自分で理解しているので、ノーストレスなんです」

システム化しないことが感動を生む

ネオシルク版画で刷った河村さんのシュレッダーシリーズ。ところどころ砂鉄やラメなどが刷り込まれ、立体的な表情を見せる。1ドル紙幣のコラージュ作品には、本物の1ドル紙幣3枚を使ったそう。
 
ネオシルク版画で刷った河村さんのシュレッダーシリーズ。ところどころ砂鉄やラメなどが刷り込まれ、立体的な表情を見せる。1ドル紙幣のコラージュ作品には、本物の1ドル紙幣3枚を使ったそう。

手作業を重視する河村さんは、以前からシルクスクリーンによるエディション(限定数)を設定した作品づくりに憧れていたという。そんな折、セレクトショップのビームスが運営するギャラリーでの個展を機会に、シルクスクリーン作品をつくれることになった。その時、ギャラリー関係者から紹介されたのが360°GRAPHICSの伊丹裕さんだ。

「伊丹さんがネオシルクを始めた頃のことで、初めてサンプルを見せていただいた時には衝撃を受けました。砂鉄やガラスなどいろいろなマテリアルを使っていて、版画なのに立体的だったからです。それまで、シルクスクリーンは工場でシステマチックに刷っていると思っていたんですが、ネオシルクはまさにアーティストの手作業によって完成する逸品です。僕の想像を超えたものに仕上げてくれるので、いつも伊丹さんに完全におまかせして依頼しています」

ガジェットのメカニカルなデザインが好きという河村さん。「SLGC001」の緻密で正確に配置された目盛りや、岩手山の山肌を表現したダイヤルの表情、ストップウオッチの針の動きなどに興味津々だった。
 
ガジェットのメカニカルなデザインが好きという河村さん。「SLGC001」の緻密で正確に配置された目盛りや、岩手山の山肌を表現したダイヤルの表情、ストップウオッチの針の動きなどに興味津々だった。

人の手と鍛錬した時間が生み出す作品。伊丹さんはシルクスクリーンを主体に、他の版画技法を2つ以上組み合わせ、新しい技法を追求。従来の版画では使用されないマテリアルも採用し、ネオシルクとして結晶した。これは正にクラフトマンシップだと河村さんは形容する。

「ネオシルクはデジタルを超えています。塗料の調合は他人に教えることができても、ここは砂鉄、ここはラメと、的確にアレンジするのは経験値とアーティストの感覚が融合していなければできないこと。それをずっと研究していることがクラフトマンだし、システマチックにできるけどシステム化しないで、手で生み出すというところがクラフトマンシップですよね」

自身も手を使って作品をつくる河村さんらしいリスペクトの表現だ。話を聞いていると河村さんも十分クラフトマンと思うのだが、自分自身についてはどう捉えているのか。

「僕は半分職人だと思っています。クライアントワークが好きなのもクラフトマンだから。決められた枠の中で自分らしさも出し、お互い納得のいくところまで詰めてクオリティを上げていく。アナログコラージュのよさに近いです。デジタルは拡大縮小ややり直しが自在ですが、アナログはそれができません。決まった制限の中で素材の最適な組み合わせを考えます。それが楽しい。自分としては作品づくりとクライアントワークを半々でやっていきたいですね。こういうマインドはアーティストというより、クラフトマンじゃないでしょうか」

時を重ねても残るものが強い作品

河村康輔
河村康輔
1979年、広島県生まれ。コラージュアーティスト、グラフィックデザイナー、アートディレクター。さまざまなブランドやクリエイターとのコラボレーションをはじめ、書籍の装丁、ライブやイベントのフライヤー、DVD・CDのジャケットなど、多岐にわたって活躍。代表的な仕事は、「大友克洋GENGA展」メインビジュアル、「AKIRA ART OF WALL」など。2022年からUTクリエイティブ・ディレクター。

「コラージュって常に時間がテーマなんです。過去の写真と現代の写真がミックスされて、1枚のグラフィックになる。大袈裟かもしれませんが、そこには地球上の歴史が全部入っているというか。自分としてはトレンドのものをつくりたくありません。ずっと残るものをつくりたい。これが一番強い作品だと思います」

時を重ねても古びないもの。それはたゆまぬ修練とそこから生まれる発想から形成されるものだろう。修練を苦と思わず、楽しいから切り抜いて、組み合わせる。そんな河村さんは、今日も自然体なクラフトマンシップでコラージュをつくり続ける。

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