明日のメイドインジャパン vol.5

日本独自の高度な技術に光を当て、次の世代に繋げる
—— ダヴィッド・グレットリ(デザインディレクター)

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日本各地の伝統工芸や地場産業のブランディングやクリエイティブディレクションを手がけ、国内外のデザイナーと日本の職人との橋渡し役として新しい風を吹き込む、ダヴィッド・グレットリさん。日本に10年以上暮らした経験もある彼が、日本のクラフトマンシップを次世代に繋げるヒントとなる、ニュー・スタンダードなものづくりについて語った。

Photos: 小林久井 Hisai Kobayashi Words: 岩崎香央理 Kaori Iwasaki

新しいものづくりのためになにができるか

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写真:Kenta Hasegawa
国産木材の調達から製造工程すべてにおいて、サステイナブルでクオリティの高い家具づくりに取り組む「カリモクニュースタンダード(KNS)」。グレットリさんは2013年からクリエイティブディレクターとして参画。カリモク家具が継承する世界有数の木材加工技術と、国内外のデザイナーによる新しい感性が融合したKNSコレクションは世界20カ国以上に展開。

世界に誇るオリジナリティと高度な技術をもつ、日本の製造業。スイス出身のデザインディレクター、ダヴィッド・グレットリさんは、持続的なものづくりを目指す数々の企業と協働し、日本の名品・名工にグローバルバリューを見出している。

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写真:Kenta Hasegawa
KNSコレクションから、オランダのデザインスタジオ、ショルテン&バーイングスが手がけたカラーウッドのダイニングテーブルとチェア。テーブルは正十四角形の天板をベースが支える、幾何学的でモダンなフォルム。木肌に半透明の模様をプリントするなど最新鋭の加工技術を駆使し、木製家具の新しい表現を試みている。

たとえば、有名家具メーカーのカリモク家具が、自社工場の設備と技術を活かし、2009年に国内外の若手デザイナーを起用して設立したブランド「カリモクニュースタンダード」。また、400年の歴史をもつ佐賀県の有田焼を世界に発信すべく、国内外のデザイナーとのコラボレーションによって今までにない仕組みで新しくつくったブランド「2016/」のデザインディレクションも、グレットリさんの仕事だ。彼は、メーカーとデザイナーの間に入り、新しいものづくりのためになにができるかを、常に探しているという。

「素晴らしい技術をもちながら、製品があまり注目されていない分野が、日本にはまだまだあります。実際に工場を見学して職人の仕事に触れると、その独自性とポテンシャルに感動することが多いのです」

完璧を求める姿勢がクオリティを高くする

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根岸産業を訪れたグレットリさん。銅や真鍮のシートを裁断して曲げ、一つひとつハンダづけする根岸洋一さんのじょうろづくりは、すべて手作業。一日に4個しかつくれないため、予約待ちは1年以上。海外からの注文も多い。「彼にしかできない技。こうしたスタンダードでオネスティ(実直)なものづくりは、じつは日本以外ではなかなか見つけにくいんですよ」と、グレットリさん。

日本で唯一、盆栽用じょうろを専門につくる東京都墨田区の根岸産業の根岸洋一さんも、グレットリさんが出会って感銘を受けたマイスターだ。根岸さんは先代から受け継いだ技術を磨くとともに、グレットリさんが手がけたプロダクトレーベル「SUMIDA CONTEMPORARY」に参加し、新しいフィールドを開拓。イギリスのデザイナー、ジャスパー・モリソンと共同で制作したじょうろが世界で高い評価を得た。

グレットリさんは言う。

「金属のシートを曲げて立体にするというシンプルな美しさのなかに、ここにしかない、彼にしかできない技があり、世界に紹介するにふさわしいと思いました。それと同時に、ものとして完璧であるがゆえに手を入れるところがなく、新しいものをつくれないのでは、と私もジャスパーさんも悩みましたね。すると、根岸さんから、盆栽専用の道具ではなく一般家庭でも使ってもらえるじょうろをつくりたい、とアイデアをもらった。たしかに、根岸さんのじょうろはプロ仕様のため家庭では使いにくい。そこに新しいデザインをする必要性が出てきたんです」

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ジャスパー・モリソンと根岸産業が共同開発した真鍮製じょうろ。盆栽用じょうろの長い竿(筒)を家庭用に短くし、コンパクトで扱いやすいバランスに。どこか愛嬌のある胴体のフォルムは、モリソンさんが昔の車のオイル缶にインスパイアされてデザインしたという。グレットリさんが身に着けるのは、グランドセイコー「SLGA009」。時計の本質はどこから見ても正しく時刻を読み取れる機能にあり、その本質を追求する誠実な姿勢そのものがグランドセイコーのブランドフィロソフィでもある。「オネスティが美をつくる。まさに日本のものづくりですよね。自分から息子へ、そのまた子どもへと受け継ぎたいクオリティです」と、グレットリさんは語る。

さらにグレットリさんは、誰に言われるでもなく技を極めていく本能が日本の職人文化にはある、と語る。

「ヨーロッパの職人社会では、受けた依頼通りにものをつくるのが普通です。しかし日本では、自分がつくりたいものを完璧につくるのが職人のプライド。だから、クオリティも高くなる」

彼が出会った日本の職人は皆、オープンマインドで海外への興味もあり、話をしても面白い人たちだという。

「彼らの話はすごく深くて、根岸さんも、水の出方ひとつを何年もかけて改良していたり、専門的な知識が根拠となっているのがよくわかります。マテリアル(素材)とファンクション(機能)に理由があるからこそ、素晴らしいかたちとなる」

世界が注目する日本のニュー・スタンダード

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ダヴィッド・グレットリ
1977年、スイス生まれ。ローザンヌ美術大学(ECAL)卒業。チューリヒでプロダクトおよびインテリアデザイナーとなり、2008年来日。2013年、京都でグレットリ・デザイン・ディレクションを設立。国内外のデザイナーとのネットワークを活かしたプロダクト開発、日本のメーカーおよびブランドのコンサルティングやマネジメント等を幅広く手がける。2018年、墨田区内のメーカー6社と国内外のデザイナーがコラボレーションした工芸プロジェクト「SUMIDA CONTEMPORARY」のクリエイティブディレクターを務めた。

こうした日本のクラフトマンシップを世界に届けるには、「ローテックとハイテック」が鍵になるのでは、とグレットリさんは考える。

「根岸さんのじょうろは、製品も製法も非常にローテック。だけど完璧で、これより精細に水を出せるじょうろは世界のどこにも存在しない。ローテックなものづくりにハイテックを極めること。そのノウハウが日本には残っていると思うのです」

グレットリさんをはじめ海外のデザイナーたちは、そうした日本のノウハウに熱い視線を注いでいる。

「デザイナーにとって、日本はすごく楽しい場所です。日本の繊細なものづくりは、海外から見るとミラクルそのもの。新しいかたちやデザインを、日本の素材と技術を使って表現する試みが、日本のニュー・スタンダードをつくっていくと思います」

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