彼女たちの時間

移ろう季節は感性を、そして経験は哲学を育んでいく。国内はもとより、海外でも高く評価されている女性クリエイターたちの創作の軌跡と現在地点、そして未来。日本の独自の美意識と精神性を大切に、匠の技とプライドで"時の本質"を追求するグランドセイコーが紐解く、かけがえのない「彼女たちの時間」とは。

Musician 矢野顕子

クリエーター No.

矢野顕子が奏でる新しい音楽

1976年の鮮烈なデビューアルバム『JAPANESE GIRL』から今年で45周年を迎える矢野顕子。
変わりゆくこと、そして変わらないこと。
コロナ禍で誕生したグランドセイコー 「彼女たちの時間」イメージソング「Nothing In Tow」に込めた音楽への思いとは。

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時を経て、かつて聴いた曲が新たな装いで聴こえてくる。
もしくは、当時気付かなかった何かに気付かされる。
多かれ少なかれ、誰にも覚えのある経験ではないだろうか。
矢野顕子にとって、記憶の箱をざわつかせるエバーグリーンな音楽とは何だろうか?

時を経て、かつて聴いた曲が新たな装いで聴こえてくる。もしくは、当時気付かなかった何かに気付かされる。多かれ少なかれ、誰にも覚えのある経験ではないだろうか。矢野顕子にとって、記憶の箱をざわつかせるエバーグリーンな音楽とは何だろうか?

幾つもあります。挙げたらきりがないくらい。中学生の頃、レコードの溝が擦り減るまで聴いていた曲とか。クラシックの作曲家ならハイドンやモーツァルト。かつて自分が一生懸命練習した曲も、いまあらためて聴いてみると作曲家の想いが見えてきて、彼らとの新たな対話に繋がることがあります。

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白蝶貝のダイヤルに40個のダイヤモンドがあしらわれた
グランドセイコーを見つめると彼女は穏やかに微笑んだ。

いいですね。角度によって輝き方が変わって、とても美しいです。着け心地も、とても軽い。

白蝶貝のダイヤルに40個のダイヤモンドがあしらわれたグランドセイコーを見つめると彼女は穏やかに微笑んだ。

いいですね。角度によって輝き方が変わって、とても美しいです。着け心地も、とても軽い。

若い時分から、外出の際は腕時計を欠かさないという。

昔から着けていないと落ち着かなくて。腕時計好きな父の影響もあったのかもしれません。ちょっとした近所の買い物でも必ず着けて出掛けます。携帯電話を自宅に忘れることはあっても、腕時計はまず忘れない。今回のパンデミックで何がショックだったかって、外出が叶わないせいで、腕時計を着ける機会がめっきり減ったこともそのひとつでしたね。

コロナ禍の影響による日常の変化は、無論、30年以上の歳月をアメリカ・ニューヨークで過ごしてきた矢野にとっても例外ではなかった。日本よりも厳格なロックダウンのなか、食料品は数日置きにタイミングを決めて買い物に出掛け、食事もずっと一人で摂る日々のなか、自ずと再考させられたのが“時間”の使い方だった。

突然、「24時間、あなたの好きに使っていいのよ?」と言われ、自分が本当に有意義な時間を送れるのかを試されるような気持ちになりました。たぶん私だけじゃなく、自粛生活の初めの頃って、みなさんそうだったんじゃないかしら。「今日は部屋を片付けるぞ」とか「今日は床を磨くぞ」とか。「今日は上手くいったなあ!」という達成感のあった日もあれば、「私ってダメね」と落ち込んでしまうくらいダメダメな日もあって。でも、人は決して生活のChores(雑事)のためだけに生きているわけじゃない。人生って、“やりたいこと”と“やるべきこと”と“やらねばならないこと”の三つを果たして、はじめて本当の満足感を得られるんじゃないかしら。そして、私にとっての腕時計が要らなくなっちゃう生活というのは、つまりはそうした満足感が得られない生活だったんです。

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矢野は呼吸をするようにピアノを弾く。人を十分に楽しませるボキャブラリーとユーモアのセンスの持ち主であるにもかかわらず、「瞬間の感情は言葉よりもピアノのほうが表現し易い」と語るくらい、彼女にとってピアノは欠かせない存在だ。長期に渡った自粛期間のなかでも、ピアノを弾くことは欠かさなかったが、それでも“動機”には少々悩まされたと苦笑する。

例えば「来週、コンサートがある」と思えば、皆さんに良い状態で聴いてほしいと思うから練習に力が入ります。先日、長年続いてきたキャバレーが閉店する模様を撮ったNHKのドキュメント番組を観たんだけど、そこでずっと歌ってきたお姉さんがいて。コロナ禍もずっと練習を続けて、閉店の日にようやく歌えることになったそのかたが、「百回練習するより、一回の本番なの」と語っていたのを観て「わかるわあー!!」って(笑)。そこにお客さんがいるということは、生で聴いてもらう云々という以上に、演者にとっても特別な力が働くものなのです。

去年(2020年)の後半から、彼女は新作アルバムを編むべく制作に着手した。

(自粛生活の)はじめの頃は「これだけ時間があれば100曲は書けるな」って思っていたの。でも、ほとんど書けなかった。でもアルバムのプランを固めたら、“動機”が強まったの、まあ惚れ惚れしちゃうくらい良い曲が書けて書けて(笑)。その中の一曲が、この「Nothing In Tow」でした。

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去年(2020年)の後半から、彼女は新作アルバムを編むべく制作に着手した

(自粛生活の)はじめの頃は「これだけ時間があれば100曲は書けるな」って思っていたの。でも、ほとんど書けなかった。でもアルバムのプランを固めたら、“動機”が強まったの、まあ惚れ惚れしちゃうくらい良い曲が書けて書けて(笑)。その中の一曲が、この「Nothing In Tow」でした。

矢野がグランドセイコー「彼女たちの時間」イメージソングに寄せた「Nothing In Tow」は、彼女が数年前から温めていた曲だった。

日頃から、「いつかこの子を立派な子に」という思いで、フレーズの断片や歌詞の切れっ端をノートにたくさん書き留めています。「Nothing In Tow」とは反対に、思い付いた瞬間は「もう、世界最高の曲!」と盛り上がったのに、半年ほど経ってみると「なにこれ?」と感じてしまう場合もあるし、書き留めないまま、きれいさっぱり忘れてしまう場合もある。そういう時は、「その程度の曲だったんだ」と潔く諦めます。

スケッチのような導入で始まる歌詞は、或る情景から着想を得て書かれたものだ。

以前、ニューヨークから車で二時間ほどかかる郊外にスタジオを持っていたことがあって。自分で100マイルほどの距離を運転して、山を二つ三つ越えていくんだけど、途中、家族でバケーションハウス(別荘)に行く人達とすれ違うんです。彼らは車で大型のトレーラーを牽引(=Tow)していて、そこには子どもの自転車やボートが積んである。そして家族で夏を過ごし、秋が近づくと、また素の生活へと戻っていく。そんな季節の経過に思いを寄せました。

夏が過ぎ、夜明けがやってくる。暗闇のなか新しい愛の歌を歌い、喜びや悲しみと共に私たちは輝く。「Nothing In Tow」から感じられるのは、過ぎゆく時の流れと来たるべき明日に向けられる眼差しである。

自分がどうしていいかわからない時、気分が晴れない時、たまたま流れてきた音楽にハッとさせられることがあるでしょう。それは最近の曲かもしれないし、昔の曲かもしれないけれど、音楽には私たちを鼓舞する力や勇気付けてくれる力、癒やしてくれる作用がある――“不要不急”なんて言葉は音楽に対する侮辱です。いま、コロナ禍以前よりも強く、あらためて「音楽がなくちゃ」と思っている人々がたくさんいらっしゃるのでないでしょうか。

この「Nothing In Tow」も収録される予定の新作アルバムは、
今夏リスナーの元に届けられるという。

この「Nothing In Tow」も収録される予定の新作アルバムは、今夏リスナーの元に届けられるという。

私自身があらためて思い知らされた音楽の力を届けたいと思います。ニューヨークもだいぶ正常化に向かっているので、また、朝起きて、身支度をして、腕時計を着けるという生活に戻れるのを楽しみにしています。

その時、彼女の腕のグランドセイコーが輝いた。
新しい音楽と共に、未来を刻むために。

Interview

Text: 内田正樹 Masaki Uchida, Photos: マチェイ・クーチャ Maciej Kucia(AVGVST)

Movie

Producer:秋山直樹 Naoki Akiyama, Production Manager:國谷陽介 Yosuke Kunitani, Director:エムエム MM, Camera:谷詩文 Shimon Tani、磯部義也 Yoshiya Isobe, Light:岩本洋三 Yozo Iwamoto, Hair Make-up:岩尾清司 Seiji Iwao, Colorist:奥津春香 Haruka Okutsu, Production:原宿サン・アド Harajuku Sun-Ad

Musician 矢野顕子(やの・あきこ)

東京都出身のシンガー・ソングライター。76年にデビュー。唯一無二の歌声と自由奔放なピアノ演奏で注目を浴び、81年にシングル「春咲小紅」がヒット。90年のニューヨーク移住後もコンスタントに作品を発表しながら、活動を積極的に展開。共演も多く、CM音楽参加など活動は多岐にわたる。8月25日にデビュー45周年を飾るオリジナルアルバム「音楽はおくりもの」をリリース予定。
https://www.akikoyano.com/

STGF279

STGF279 [ Grand Seiko Elegance Collection ]

知性的でありながら女性らしい繊細さを併せ持ち、ビジネスシーンでは自信を、プライベートシーンでは優雅さを、身に着ける女性に与えてくれるクオーツモデル。ベゼルにあしらった40石のダイヤモンドが毎日に高揚感をもたらし、まるで白く淡い光を放つような白蝶貝ダイヤルと相まって、ステイタスのある女性にふさわしいクラス感を演出する。
ステンレススチールケース、ケース径26mm、クオーツ、583,000円(税込)