Feature Model
Produced by HODINKEE Japan for Grand Seiko

2022.03.08.TUE

セイコースタイル 光と陰が織り成すデザインコード:The Grammar of Design

進化し続け燦然と輝くグランドセイコー、55周年を迎えた44GSの今。

44GS

名作と呼ばれる時計には、美しくかつひと目でそれだとわかるデザインが不可欠である。グランドセイコーもまた、1967年に確立された「セイコースタイル」によってアイコニックな外観を構築してきた。それを最初に具現化したのが、TOPイメージの中央にある「44GS」であった。両サイドのモデルは、44GSを再解釈した“現代デザイン”の最新作だ。針や植字インデックス、潔く斜めに切り落としたケース両サイドなど、特徴的なディテールが受け継がれている。

メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル SBGJ255

メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル SBGJ255

グランドセイコーの歴史に輝く44GSの名が、海外でも知られるようになったのは、2014年のこと。この年、44GSデザインにCal.9S86を搭載し誕生した「メカニカルハイビートGMT限定モデル」が、ジュネーブ・ウオッチ・グランプリ(GPHG)の部門賞に輝いたのだ。そんなグランドセイコーを語る上で欠かせない44GSは今年、誕生55周年を迎えた。上の写真の「SBGJ255」は、55周年記念モデルの第一弾。GPHG受賞作をベースとし、44GSの華々しい栄光の歴史を腕に誇れる。

  • Photos: Tetsuya Niikura
  • Words: Norio Takagi
  • Calligraphy: Shogo Sekine

セイコースタイルのみっつのデザイン方針

グランドセイコーは1960年、「世界に挑戦する国産最高級の腕時計」を志し誕生した。その初代から今日まで追求し続けるのは、「正確さ」「見やすさ」「美しさ」。ひとつめの正確さは、優れたムーブメント開発でかなえてきた。そして残りふたつを実現するのは、独自のデザインロジックで構築されたセイコースタイルである。目指したのは、「燦然と輝くウオッチ」であった。より多くの人の感性に響かせるため、セイコーのデザインチームは、「光」と「陰」との調和を重要なキーポイントとした。そして、

1. 平面を主体として、平面と二次曲面からなるデザイン。三次曲面は原則として採り入れない。

2. ケース・ダイヤル・針のすべてにわたって極力平面部の面積を多くする。

3. 各面は原則として鏡面とし、その鏡面からは極力歪みをなくす。

という、みっつのデザイン方針を定めた。うち最後の「鏡面から極力歪みをなくす」のに欠かせないのが、1950年代にドイツのザラツ兄弟社から導入した研磨機。回転する錫盤に押し当て鏡面仕上げの下地となる超平滑な面をつくる「ザラツ研磨」によって歪みが解消された完璧な平面はまるで鏡のようで、グランドセイコーを燦然と輝かせる。

平面と二次曲面からなるデザイン

左が1967年の44GS、右は現代の44GSデザインSBGJ255

左が1967年の44GS、右は現代の44GSデザインSBGJ255。様々な傾斜を持つ平面を組み合わせたケースは、多方向に光を反射し立体感をより増す。写真左のケースサイドは二次曲面でラグを滑らかに一体化。三次曲面を排したことで、凛としたシャープなフォルムが織り成されている。また現代デザインではケース表面とサイドとの境に垂直面が追加され、より立体的な造形美が創出された。

ケース・ダイヤル・針のすべてにわたって極力平面部の面積を多く

ケース・ダイヤル・針のすべてにわたって極力平面部の面積を多く

初代グランドセイコーのダイヤルはボンベであったが、第二世代の「GSセルフデーター」からはモダンなフラットに変更。多面カットの植字バーインデックスとドーフィン型の針は、初代からの継承であり、どちらも表面はフラットに造作されている。現代デザインの針は、よりフラット面が広く採られ、太く見やすくなった。一方で切っ先は鋭く、明確にインデックスを指す。

歪みのない鏡面

歪みのない鏡面

セイコースタイルを最終的に完成させるのが、ザラツ研磨である。ケースは鍛造・切削後、粗ザラツ・仕上げザラツの工程を経て、バフ掛けをすることで歪みが解消された完璧な鏡面が生まれる。現在は錫盤に代わって、粗ザラツには紙ヤスリを、仕上げザラツには紙と研磨剤とを使用する。右の写真でベゼル側面への映り込みが、歪んでいないことに注目したい。

セイコースタイルの9つの要素

セイコースタイルとは鏡面が放つ光と、立体的なディテールが落とす影とを操作して、美を創出するためのデザインロジックである。そして定めた上記みっつのデザイン方針から、以下9つのデザイン要素が導き出された。

セイコースタイルの9つの要素

1. 他のインデックスの2倍の幅を持つ12時インデックス
12時位置が二倍体となることでダイヤル上の縦のラインが強調される。

2. 多面カットのインデックス
多面カットは光を受けると煌めき、美しさと高い視認性を両立する。

3. 鏡面研磨されたガラス縁上面
歪みの無い鏡面はより稜線を際立たせる。

4. 鏡面研磨されたケース平面
ケース上面を平面化したことでよりシャープで硬質感のある印象を作りだしている。

5. 半ば胴に埋めたりゅうず
装着時にりゅうずが手首に当たらず、装着感を損なわない。

6. フラットダイヤル
針とインデックスとが浮き立ち、より判読性を高める。

7. 多面カットの太い時分針
多面体により美しく煌めき、かつ視認性も高まる。

8. 接線サイドライン
ケースのサイドラインを直線から繋がる曲線とすることで、かたちが整理され美しい鏡面を作り出す。

9. 逆斜面形状のベゼル側面とケース側面
逆斜面にすることで薄さを強調しより美しいフォルムを演出する。

これら9つの要素の多くは美しさのみならず、視認性や装着感といった時計としての機能を高める役割を持つ。モダンデザイン論は、機能美を普遍と説く。44GSによって確立されたセイコースタイルは、普遍の美を宿し、55年を経ても色褪せない。

日本人の美意識に共鳴するデザイン

セイコースタイルが色褪せないのは、日本人の光と陰に心を配る美意識を体現したデザイン言語であるからというのも理由のひとつでしょう。作家の谷崎潤一郎は、随筆『陰翳礼讃』のなかでこう語っています。

我々の先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。

– 『陰翳礼讃』谷崎潤一郎著

 古来から西洋が家の隅々まで可能な限り明るく照らす文化であるのに対して、日本は行灯や提灯、和紙を張った障子からもわかるようにあえて暗闇を残し、描き出される陰影の美しさを楽しむ文化があります。

 セイコースタイルは、多面カットや鏡面の平面を多用することで光と陰を巧みに取り入れ、無意識のうちに日本人の心に共鳴するデザインとなっているのです。近年、国外の時計愛好家たちから、グランドセイコーの時計デザインが“東洋的”と評価されるのもこうした側面からでしょう。谷崎が記した「美の目的」は、今なおグランドセイコーに宿っているのだと感じられます。

史上最高スペックの44GS

44GS誕生55周年記念モデルの第2弾は、2020年以降に発表されたふたつの最新ムーブメントを、世界最高レベルの耐食性と美しさを備えたエバーブリリアントスチールで包み込んだ。すなわち機械も外装も、44GS史上最高スペックが与えられたのだ。そのケースの燦然とした輝きは、美しく錆びにくい新素材であるがゆえ長く保たれる。そしてダイヤルは、水の流れや木目にも似た「悠久の時」をテーマとした型打ち模様が彩り、普遍の美を持つ44GSのアニバーサリーを寿ぐ。

SLGA013 最新の5日巻スプリングドライブ

SLGA013

切り立ったエッジを形成する大きな平面が、既存のSS製グランドセイコーとはまた違った白い輝きを放つ。このプラチナにも似た鏡面の質感は、世界最高レベルの耐食性を備えた新素材エバーブリリアントスチールによるもの。プロ用ダイバーズウオッチのために導入された高性能スチールが、初めてグランドセイコーに用いられたのだ。一般的に時計に採用されているステンレススチールと比較して、PERN(孔食指数)値で1.7倍という高い腐食耐性を有しており、長期使用にも最適。鍛造・切削・研磨のいずれも困難な難加工材だが、燦然と輝くウオッチにふさわしい強い輝きを放つ。

SLGA013

煌めかんばかりのベゼルが取り囲むのは、悠久の時の流れを表現した立体的な型打ちダイヤル。金型は、自然界にある連続する曲線を見事に写し取り、フラットなダイヤルに立体的な美を添えてみせた。その深いグレーカラーのダイヤルに、ピンクゴールドカラーの秒針が浮き立ち、スイープ運針を奏でる。滑らかな針の動きをもたらすのは、最新の自動巻スプリングドライブCal.9RA2。120時間もの長時間駆動を実現する大小ふたつの香箱と主輪列とを、しっかりと支える1枚板のブリッジは、信州に見られる霧氷にも似た仕上げとダイヤモンドカットによる鏡面とで、外装と同じく光と陰が調和した美を織り成している。新開発のマジックレバーをオフセット化した、薄型設計。りゅうずの位置をできる限り裏ぶた側に寄せることで、重心が下がり、装着感はより高まった。

SLGH009 新たな脱進機を備えたハイビートキャリバー

グランドセイコーが誕生60周年を迎えた2020年に登場した自動巻Cal.9SA5は、世界的に大きな話題となった。アンクルに加え、てん輪の振り座に第3の爪を持ち、3ヵ所でガンギ車を打つ独自のデュアルインパルス脱進機が、極めて革新的であったからだ。効率性に優れ、3万6000振動/時のハイビートでありながら80時間駆動を実現。またグランドセイコー初のフリースプラングと巻上ひげの採用で、耐衝撃性と等時性にも秀でている。

SLGH009 新たな脱進機を備えたハイビートキャリバー

そんなグランドセイコーが誇る最新の自動巻が、初めて44GSに搭載された。そのケースとブレスレットを形作るのは、前出の55周年記念モデルと同じエバーブリリアントスチールである。その白い輝きに、ダイヤルの深いブルーが映える。ダイヤル表面には、やはり途切れなく流れる型打ち模様が浮かび、悠久の時が表現されている。ハイビートならではの緻密な動きを見せる秒針は、深いブルーと相性のいいイエローゴールドカラーに。植字のバーインデックスは、前出のスプリングドライブ搭載の55周年記念モデルも含め、セイコースタイル伝統の多面カットが施されていることに加え、表面には筋目仕上げが施されていて、より一層豊かな質感が与えられた。

SLGH009 新たな脱進機を備えたハイビートキャリバー

美観を高めたダイヤル同様、裏ぶた側も見ごたえがある。キャリバー上面には製造の地である岩手県雫石川の緩やかな流れを思わせるソフトなストライプ装飾が施され、審美性にも優れている。輪列は、独自の水平輪列構造により薄型化を実現。やはり装着時の重心を下げ、さらにケースも11.7mmと薄く、腕に心地よくフィットする。

最新のスチール素材と自動巻機構とが与えられたふたつの44GS 55周年記念限定モデルは、美しさにおいても史上最高レベルを手に入れ、実用時計としてのさらなる高みに至った。

美はディテールに宿る──20世紀を代表する建築界の巨匠ミース・ファン・デル・ローエによる金言を、44GS現代デザインは実践する。普遍の機能美をまとった初代44GSを細部まで精査し、細かなディテールをブラッシュアップさせているからだ。進化なくしては、継続はあり得ない。55周年を迎えた44GSを次なる未来につなぐ道筋を記念モデルは提示した。44GSのセレブレーションは、まだ始まったばかり。その道筋の先にある、新たなる44GSの登場を心待ちにしたい。