GS Grand Seiko

PRODUCT STORY 2日本的な時計づくりが、
“クラシック”を生む。

大学では工業デザインを専攻した星野だったが、セイコーエプソンに入社すると、腕時計をつくる部署に配属された。

「実は父もものづくりの仕事に携わっていて、子どもの頃から家には設計図や試作品が置いてありました」。父と同じ領域の仕事をするつもりはまったくなかった。しかし、ものづくり、とくに職人の手仕事に強く惹かれていた星野は誰に命じられたわけでもなく、加工現場の機械を操り、職人を知り、グランドセイコーのものづくりの歴史を“知識”ではなく、自分の頭と手を駆使して追体験し、やがてグランドセイコーをつくるチームのひとりになった。手がけたのは、3つの動力ぜんまいをもつトリプルバレルを搭載したグランドセイコーのスプリングドライブ8Daysと、デュアル・スプリング・バレルを組み込んだ手巻スプリングドライブのグランドセイコー。どちらも先鋭的な手巻スプリングドライブのムーブメントを内に秘めながら、日本的な静寂の美がそのデザインに昇華されている。

ベゼルの試作品。微妙に異なる角度で多数つくり、光の反射を検証。

星野がかつてヨーロッパを訪れたとき、とある現地の時計師からこう言われたことがある。「グランドセイコーはクラシックだ」。クラシックの語源は「クラシキ(classici)」であり、古代ローマの市民階層の最上級を意味した。そこから「最上級」「傑作」などの語義が生まれたもので、日本語のクラシック=古典とはニュアンスが異なる。星野はヨーロッパの時計師の言葉を聞いて新鮮な驚きを感じた。日本は時計づくりの技術を欧州に学んできたが、本場の時計師たちはいま、日本を見ている。ひとつしかない頂点を奪うために彼らと闘うのではなく、それぞれの文化のなかでそれぞれの美学と技術を磨き、それぞれの頂点を目指す。星野は言う。「腕時計に限らず、世界には多様性があったほうが豊かだし、面白いじゃないですか」

星野が保管するグランドセイコー歴代の試作品など。星野の独特な方法論の原点だ。