GS Grand Seiko

PRODUCT STORY 2「マイクロアーティスト工房」とは。

マイクロアーティスト(MA)工房はセイコーエプソンが誇る工房で、ムーブメントや外装の設計、磨きや組み立てなどのエキスパートたちの仕事場である。キャリバー9R01の開発から参加した時計師の中田克美は、その組み立てを「美しく磨かれた部品を傷つけないよう注意は必要ですが、設計案の段階でこちらがやりやすいように考えてもらっているので、想像するほど難しくはありません」と言う。「現代の名工」であり黄綬褒章も受章した中田の発言なので割り引いて聞かなくてはならないが、設計から開発までを統括した茂木正俊と机を並べる、つまり異なる分野の専門家たちが共同作業するこの工房は、高級時計だけでなく、専門家たちが互いの力を最大限に引き出す環境をも生み出しているといえるだろう。

組み立てに取り組む中田克美。複雑なムーブメントを組むために工具類は使いやすく加工し、磨きあげる。

「直結トリプルバレル」という、
稀有な構造。

動力ぜんまいを内蔵する円形のケースは「香箱」や「バレル」と呼ばれ、直径1㎝に満たない空間に全長数十㎝の動力ぜんまいが収められている。この香箱には歯車がついており、ぜんまい駆動式時計の動力源であるため「一番車」とも呼ばれる。キャリバー9R65は72時間持続だから、同じ香箱を3つ積めば72×3で216時間になるはずだ。しかし香箱と香箱の間に歯車を置くと一箇所あたり約10%のエネルギー・ロスが発生するという。そこでトリプルバレルのキャリバー9R01では、中間の歯車を介さずに香箱の歯車同士を直接連結させ、ロスを極力減らす構造を選択している。この方式は他に類を見ないが、それは限られたスペースの中で最適な部品形状や配置を追求した結果である。

茂木によるトリプルバレル解説図。設計時は1/100㎜という単位が用いられ、これをウオッチ単位という。