GS Grand Seiko

PRODUCT STORY 1グランドセイコーらしい、
スポーツウオッチとは。

腕時計のムーブメント以外の要素をまとめて「外装」と呼ぶ。たとえば、グランドセイコー専用のスプリングドライブムーブメントのひとつ「キャリバー9R86」を用いて、どんな時計に仕上げていくかは、外装を担当するデザイナーと技術者の意思と腕にかかっている。キャリバー9R86というぜんまいで駆動する最も高精度なクロノグラフを活かして、いままでにないスポーティなグランドセイコーがつくれないか。そんな考えのもとで生まれたのが「黒いグランドセイコー」というイメージだ。

そこで浮かんだのが、セラミックスという素材。長期メンテナンスの観点からめっきなどの表面処理を原則としてしないというグランドセイコーの方針の下でも、セラミックスなら「黒い素材」として魅せることは可能だ。特にジルコニア・セラミックスであればステンレススチールよりも高い硬度で傷付きにくい上、美しい質感も期待できる。「しかし品質保証という点から外装すべてをセラミックスにすることはできません」と、外装の量産技術を担当する仲林裕資は言う。ばね棒の力がかかるかん足部などが経年変化で破損、割れなどの可能性があるからだ。

量産技術を担当する仲林裕資(左)と、外装設計者の滝内享(右)。仲林は設計図通りの部品をつくる工程を検討するだけでなく、時には特殊工具の設計まで行う。

そして怪我の功名というべきだろうか、ブライトチタンでムーブメントを包み込み、それを黒いジルコニア・セラミックスで鎧のように守るというハイブリット構造のケースにするアイデアが生まれた。

外装担当の仲林とセラミックスの生産・製造を担当する現場にとって、それは試行錯誤の始まりでしかなかった。桁違いに硬いセラミックスはその生産から、加工、研磨と、どの工程もステンレスなどの金属とはまったく異なる。「初めはセラミックスの常識的な加工方法でできうる造形で試作しましたが、どうしてもグランドセイコーのクオリティや品位に届かない。そこで全面的に工程を見直すことにしました」。そう言葉にするのは簡単だが、平滑な面と美しい稜線の両立といったグランドセイコーらしいデザイン要素を、ステンレスやチタンと同様に、セラミックスで再現するのは至難の業だった。品質とデザイン性の両立に徹底的にこだわり、ようやく製品化への道筋をつけた仲林だが、2014年の企画開始から、その奮闘は約2年にわたるものだった。

ブライトチタンのインナーケースを囲むようにジルコニア・セラミックスを取り付けた多層構造。耐摩耗性や防水性も備える軽量で実用的なスポーツウオッチに。

外装技術といえば「ダイバーズウオッチ」にも触れないわけにはいかないだろう。グランドセイコーのラインナップにダイバーズが初めて加わったのが2008年。そのムーブメントはスプリングドライブの「キャリバー9R65」だった。外装設計を担当した滝内享の仕事は、デザイナーが描くイメージを部品単位の図面に落とし込むことだ。しかし滝内はすぐには図面を起こさなかった。「なぜグランドセイコーにダイバーズなのか? その意味を議論することがこの仕事の出発点でした」。商品企画の担当やデザイナーだけでなく、技術者までが「グランドセイコーとはどうあるべきか」を考えていた証しだ。

ダイバーズウオッチというと防水性がクローズアップされがちだが、それは要求される性能の一部でしかなく、視認性や耐衝撃性などあらゆる意味で実用的でタフな腕時計でなくてはならない。こうした基本性能を高めることは、「実用時計の最高峰」を究めようとするグランドセイコーの哲学にも通じる。そして、世代を超えて愛用されることもグランドセイコーの基本理念であるゆえに、ケース外観部の再研磨等、主要部品が部品単位で修理できるように、容易に分解ができる構造になっている。滝内は言う。「デザインや仕上げといった外側の見える部分だけでなく、永く愛用できるための実用的な構造もグランドセイコーのダイバーズとして採用したかったのです」