GS Grand Seiko

PRODUCT STORY 2クロノグラフでも、
駆動時間は減らない。

機械式のクロノグラフは一般的にストップウオッチを作動すると時計の駆動時間が減り、ぜんまいのトルクが少なくなると計測精度もばらつく。しかしスプリングドライブは驚くことに計測を開始させても駆動時間は減らず、精度も変わらない。開発チームは、輪列を見直して歯車を少なくすることで力の伝達ロスを低減し、秒針の速度を調整するブレーキに必要な電気エネルギーを半分に抑え、ぜんまい駆動のクロノグラフとして画期的な性能を達成した。

次は操作の精度である。ストップウオッチの精度は、時計としての精度だけでなく、人間の意思を瞬間的にメカニズムに伝えられるかどうかにも左右される。そのために過去いくつも考案されてきた仕組みの中から、ピラーホイールと垂直クラッチという組み合わせが選ばれた。確実で精密な操作感と高い計測精度を実現することが、グランドセイコーのクロノグラフを名乗るために必要だったからだ。

2007年に完成したキャリバー9R86搭載機。プッシュボタンは重すぎず軽すぎない最高のクリック感を実現するためREADY/STARTモードを採用する。

2007年、キャリバー9R86は完成する。自動巻、72時間駆動に続いて24時針までも備えたクロノグラフムーブメントへ。スプリングドライブは進化したが、この機構を発案した時計技術者、赤羽好和が1998年に逝去する前に「次につくりたい時計がある」と周囲に漏らしていたことを、後輩であり部下でもあった原辰男は耳にしたことがある。「具体的にどんな時計かわからないんですが、もしかしたら原子腕時計じゃないか?と想像したりもします」

ひとりのエンジニアが見た夢は20世紀のうちに実現し、21世紀に大きく成長し始めた。それは、大胆であると同時に緻密な、日本という国のものづくりの精神を象徴しているのかもしれない。