more about Caliber 9F【キャリバー9Fを読み解く】

各分野のプロフェッショナルが腕を競う。
各分野のプロフェッショナルが腕を競う。

9Fを組み上げる、「信州 時の匠工房」とは。

セイコーエプソンの塩尻事業所内にある「信州 時の匠工房」は、グランドセイコーをはじめとする高品質な時計づくりに必要なさまざまな技術をもつエンジニア、職人たちを集めたマニュファクチュールである。その源流は1942年に時計の部品製造と組み立てを開始した大和工業。後に第二精工舎諏訪工場と合体し、諏訪精工舎となり、機械式腕時計の名作「マーベル」「クラウン」「初代グランドセイコー」、世界初のクオーツ腕時計「クオーツアストロン」などを輩出してきた。その進取の気性はセイコーエプソンとなってからも衰えず2004年には自動巻のスプリングドライブ機構を開発し、世界の腕時計の歴史に新しい1ページを加えたのは記憶に新しい。

原則として経度15゜が1つのタイムゾーンとなる。
原則として経度15゜が1つのタイムゾーンとなる。

GMT機能とは、いかなるものか?

GMTとはGreenwich Mean Time(グリニッジ標準時)の略で、これを基準に世界各地の時間帯が決められた経緯から、現地時間と時間帯の異なる国や地域の時刻を、腕時計で同時に表示する機能を「GMT」機能と呼ぶ。方式は千差万別だが、キャリバー9F86は3針に24時針を加え、たとえば日本から香港に行くときは一段階引き出したりゅうずを回し、時計を停止させることなく時針だけを1時間戻す。結果、24時針は日本の時刻を、時針は香港の時刻を表示することになる。

「時ジャンパー体」がこの機能の要だった。
「時ジャンパー体」がこの機能の要だった。

「時針単独修正」の仕組み。

キャリバー9F86のGMT機構は、24時針と時針単独修正機能に集約される。24時針を含む4本の針はステップモーターの力で動いているが、りゅうずを1段引いて回すと、時針を30度ずつだけ前後にジャンプさせられる。「30度」とは時針が1時間かけて回転する角度。時針の軸にとりつけられた時差修正用の歯車をりゅうずで動かすわけだが、そのとき重要な役割を果たすのがジャンパー、正しくは「時ジャンパー体」というパーツである。時針が、すっ、ぴたっと時を美しく跳躍するように、そしてそれを心地よく操作できるように「ばね」の力を利用する。この小さなパーツの開発にどんなブレイクスルーがあったのか。現在はまだベールに包まれている。