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高温高圧容器内で精製される水晶。
高温高圧容器内で精製される水晶。

振り子から水晶へ。

初期の機械式時計や和時計では、慣性モーメントを利用した「棒てんぷ」という仕組みで時計を制御したが、1日に1時間ほどの誤差が生じてしまうものだった。ガリレオが発見した「振り子の等時性」は、機械式時計の精度を飛躍的に高め、その振り子は、17世紀にひげぜんまいを使うばね振り子、つまり「てんぷ」へと小型化と高精度化を果たした。振り子の原理に依存しない水晶時計(1927年)は高精度ではあったが、巨大な箪笥ほどのサイズ。それが1969年のクオーツアストロンへ、体積では数十万分の1にまで小型化されたわけだ。水晶時計から水晶腕時計へのイノベーションには40年以上かかったということになる。

直径1㎜に収まる音叉型水晶振動子。
直径1㎜に収まる音叉型水晶振動子。

IEEEマイルストーン賞への道程。

交流電圧を加えると水晶は規則正しく振動する。その原理を応用した水晶時計は温度変化に弱いことが課題だったが、1930年代に日本人科学者が、特定の角度でカットされた水晶は温度変化に強いことを発見。1958年にロッカーほどの大きさの水晶時計を開発したSEIKOは、約10年で音叉型の水晶振動子、低消費電力のICそしてオープン型ステップモーター(超小型モーターのパーツをムーブメントの隙間に分散して配置する仕組み)を開発。この世界初のクオーツ腕時計は発売から35年後、IEEE(米国電気電子学会:アメリカに拠点をおくエレクトロニクスの専門家組織)から歴史的偉業として「マイルストーン賞」が贈られた。

緩急スイッチを備えるキャリバー9F82。
緩急スイッチを備えるキャリバー9F82。

「緩急スイッチ」とは何か?

機械式腕時計に「緩急針」という機構が備えられていることをご存じだろうか。機械式の歩度調整にはいくつも方法があるが、緩急針はてんぷのひげぜんまいの可動域を微調整することによってそれを行う。さて、キャリバー9Fの部品(回路受)にも、+と−の目盛りが刻まれた「緩急スイッチ」がある。名前は似ているがそのメカニズムは、回路を切り替え、ある周期ごとに補正を加えることで、精度を調整するのである。たとえるなら暦を調整する「うるう年」を設定することに近いかもしれない。緩急スイッチの目盛りひとつは、1日当たり0.0165秒。1ヶ月で約0.5秒に相当する。高精度な機械式の100倍以上の精度を有するだけに、調整単位も桁が違う。