more about Caliber 9F【キャリバー9Fを読み解く】

「組み合わせ軸受け」採用のキャリバー9F。
「組み合わせ軸受け」採用のキャリバー9F。

「ダイヤフィックス」とは何か。

セイコークラウンが発売されたのは1959年。この時計に初めて採用されたのが、「ダイヤフィックス」と呼ばれる「組み合わせ軸受け」による保油機構だった。それが初代グランドセイコーに継承され、クオーツであるキャリバー9Fでも活躍している。その仕組みは、歯車の軸を保持するルビーの「穴石」の先に枠を設け、そこに同じく赤いルビーの「受石」をセットし、U字型スプリングで押さえるというもの。穴石と受石の間隔が一定になるので、潤滑油の量が適切に保たれる。もちろん、これによってメンテナンスフリーとなるわけではないが、保油性は格段に高まり、腕時計のムーブメントにとって致命的な故障を未然に防ぐのである。

耐磁板の配置にも配慮と工夫が。
耐磁板の配置にも配慮と工夫が。

ムーブメントを磁気から守る。

腕時計にとって、油切れと同様に警戒する必要があるのが磁気である。テレビ、携帯電話、バッグの留め具など、我々の身の回りにある永久磁石が機械式、クオーツを問わずムーブメントに悪影響を及ぼすからだ。その磁気からムーブメントを守るため、キャリバー9Fは磁気経路を確保したモーターを搭載したうえで、耐磁板を組み込んでいる。この純鉄の耐磁板は盾のように磁気を跳ね返すのではなく、磁気の「避雷針」として働く。その耐磁性能は4800A/mで、ISO規格に定められたダイバーズウオッチと同等の耐磁性能を実現している。とはいえ、携帯電話に腕時計を近づけたり、密着させたりは避けるべきだ。

9Fを搭載したある腕時計の断面図。タフネスを実現する構造。
9Fを搭載したある腕時計の断面図。タフネスを実現する構造。

強度を4倍に高めた、タフな「地板」。

キャリバー9Fを搭載したグランドセイコーを手にすると、ずっしりとした重みに気がつく。その理由の一つは分厚い地板(じいた)にある。腕時計ムーブメントの地板は自動車でいえば「シャシー」にあたる、いわばムーブメントの骨格となる基盤。キャリバー9Fの地板は、一般的なクオーツムーブメントに使われている地板と比較して約2倍の厚さをもたせた。強度でいえば約4倍。キャリバー9Fの開発陣は、ムーブメントの耐衝撃性、耐久性を高めるために、「軽く、薄い」というクオーツムーブメントの利点をある意味で「捨てた」のだった。